2020年5月20日水曜日

殺さなかったけどね



母方の祖父は実業家で
なんども破産の憂き目にあいながらも
晩年は左うちわだったが
ここではそういうことはどうでもよい

子どもの頃
このおじいちゃんのわきで食事をしていたら
ぼくがあまりに食べるのが遅いものだから
「なにをぐずぐず食べているんだ?」と言われた
ふだん親に言われるのとは違って
おじいちゃんに言われたものだから
けっこうコタエて
シュンとしてしまった

そのとき
こころの中に起こったことが忘れられない
殺してやる…
とはっきり思ったのだ

自己発見のひとつだった
ぼくはおじいちゃんでさえ「殺してやる…」と
すぐに反応するこころを持っているのだ

殺さなかったけどね

でも
How my heart sings!なんか聴くと
(ビル・エヴァンス・トリオのCDがいつも手元にある)
おじいちゃんへの反応を
すぐに思い出す

後年
フランスにばかり行くようになって
ぼくの食事ののんびりさよりも
フランス人たちのほうが
はるかに
のんびりだと知った

おばあちゃんに
「そんなゆっくり食べてたら戦争に行った時に困るんだからね」
と教えられたアレは
なんだったんだろう?と
ニッポンの全否定に
ぼくは取りかかり始めていた

いまはむかし
だけどね
そんなことも
あんなことも




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