2020年5月4日月曜日

私はもう時間でしかない…

 
             Je ne suis plus que le temps.
                                      Chateaubriand


薔薇を何種類も育てるのが楽しみになって
いつのまにか20年ほどが過ぎていったが
前の住処では黄金虫が多くて根まで幼虫に食べられることが多く
育てていた薔薇の鉢はどんどんと数が減っていってしまい
今ではたった一種類だけの幾鉢かが残っている
それは三軒茶屋住まいの時に近所の花屋で買った
フランスの詩聖の名を取ったピエール・ド・ロンサールで
これは咲き初めの花がみずみずしい処女の唇のよう
にもかかわらず他の薔薇よりも病虫害に強く
頻繁に訪れたフランスの田園にいるような少女を彷彿とさせる
昨年思い切って10㎝ほど残して刈ってしまった根茎から
ぐんぐんと若い枝が幾本も伸び出て大きな蕾をつけ
今朝とうとう花を開きはじめて三軒茶屋の頃の日々が蘇る
まだこの薔薇の株がいくつかに分かれて残り続け
この薔薇のひと鉢を手に入れた頃の記憶が残り続け
そうしてこの薔薇のすべての時間に関わり続けた自分が
こうしてまだ残り続けていることの不思議さ
私はもう時間でしかない…と言った頃の
老いたシャトーブリアンの意識の中にいつのまにか
生きるようになっていたかもしれない、わたしも





0 件のコメント:

コメントを投稿