むかし教えた娘だ
一番街に住んでいるという
すぐそこだね
いまいくつぐらいになったのだろう?
もちろん訊かない
美人といっていい顔だが
顎が小作りで
ちょっと卑小さもある
そこが残念
しかし
かわいい
ずっと見ていて
気持ちのいい顔ではある
けれども
ちょっと卑小さがある
親しくなりすぎないようにしよう
との自制が
自然にこころに働く
アドレス教えて。
あ
LINEのほうがいいかな?
教えてくれながら
(メンドクサイナ…)
と呟いている
あ
いいよ
メンドクサければ
でも
せっかく
こんなに近くに住んでるのが
わかったから…
わかったから
なんだ
というのか?
言いながら
かっこよくないな
と
じぶんでも
思う
むかし教えた娘
一番街に住んでいるという
すぐそこだね
美人といっていい顔
顎が小作りで
ちょっと卑小さが
ある
親しくなりすぎないようにしよう
との自制が
自然にこころに働く
だが
わからないものだ
人生は
一年半後に結婚して
わたしの子を三人も産んで
約40年後
逝ってしまった
秋の命日が近づいている
逝ってから
もう15年にもなる
わたしも
もう
98歳になる
美人といっていい顔だが
顎が小作りで
ちょっと卑小さもある
そこが残念
40年もいっしょにいたが
顎が小さいからね
大丈夫かな
と
固いものを食べさせるとき
よく心配した
大丈夫だよ
お母さん
あれで
すごく噛むのつよいから
と
長男が
よく言っていた
その長男も
母より先に逝った
戦死だった
戦争は避けられない
不慮の死
というものは避けられない
戦争好きの
ジンルイ
に属しているわれわれ
ということを
忘れてはいけない
戦争と
殺しと
差別と
支配と
抑圧とで
いまのように
地球に君臨した
ジンルイ
に属しているわれわれ
他の生は
ありえない
ということを
娘は母に似て
たいそうな美人に育った
ずっと見ていて
気持ちのいい顔ではあるが
もう中年なのに
これという相手が
まだ
いないらしい
顎が小作りでなく
卑小さがない
母は
幸福なぐあいに
この娘には
超えられたのだ
と言えるかもしれない
また
戦争が始まる
娘が
もし子を産むことがあったら
どんな
スマートな殺戮者に
育っていくだろう
その子は
あるいは
殺戮者の支える制度に
ぶら下がり続ける
善良なる市民として生きて
どこかの一番街に住んでいる
娘に
出会ったりするだろうか
また
戦争が始まる
だって
ぼくらが
大がかりに仕掛けたからね
と
次男がこの前
クラムチャウダーを啜りながら
言っていた
(だって、ジンルイだものな)
と
言いかけて
やめる
(メンドクサイナ…)
と
次男の母が
まだ
母になる片鱗さえ見せていなかったころ
呟いたのを
思い出す
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