2020年10月8日木曜日

クラムチャウダーを啜りながら

 

むかし教えた娘だ

 

一番街に住んでいるという

すぐそこだね

 

いまいくつぐらいになったのだろう?

もちろん訊かない

美人といっていい顔だが

顎が小作りで

ちょっと卑小さもある

そこが残念

 

しかし

かわいい

 

ずっと見ていて

気持ちのいい顔ではある

 

けれども

ちょっと卑小さがある

親しくなりすぎないようにしよう

との自制が

自然にこころに働く

 

アドレス教えて。

LINEのほうがいいかな?

 

教えてくれながら

(メンドクサイナ…)

と呟いている

 

いいよ

メンドクサければ

でも

せっかく

こんなに近くに住んでるのが

わかったから…

 

わかったから

なんだ

というのか?

言いながら

かっこよくないな

じぶんでも

思う

 

むかし教えた娘

一番街に住んでいるという

すぐそこだね

 

美人といっていい顔

顎が小作りで

ちょっと卑小さが

ある

親しくなりすぎないようにしよう

との自制が

自然にこころに働く

 

だが

わからないものだ

人生は

 

一年半後に結婚して

わたしの子を三人も産んで

約40年後

逝ってしまった

秋の命日が近づいている

逝ってから

もう15年にもなる

 

わたしも

もう

98歳になる

 

美人といっていい顔だが

顎が小作りで

ちょっと卑小さもある

そこが残念

 

40年もいっしょにいたが

 

顎が小さいからね

大丈夫かな

固いものを食べさせるとき

よく心配した

 

大丈夫だよ

お母さん

あれで

すごく噛むのつよいから

長男が

よく言っていた

 

その長男も

母より先に逝った

戦死だった

 

戦争は避けられない

不慮の死

というものは避けられない

 

戦争好きの

ジンルイ

に属しているわれわれ

ということを

忘れてはいけない

戦争と

殺しと

差別と

支配と

抑圧とで

いまのように

地球に君臨した

ジンルイ

に属しているわれわれ

他の生は

ありえない

ということを

 

娘は母に似て

たいそうな美人に育った

ずっと見ていて

気持ちのいい顔ではあるが

もう中年なのに

これという相手が

まだ

いないらしい

 

顎が小作りでなく

卑小さがない

母は

幸福なぐあいに

この娘には

超えられたのだ

と言えるかもしれない

 

また

戦争が始まる

 

娘が

もし子を産むことがあったら

どんな

スマートな殺戮者に

育っていくだろう

その子は

 

あるいは

殺戮者の支える制度に

ぶら下がり続ける

善良なる市民として生きて

どこかの一番街に住んでいる

娘に

出会ったりするだろうか

 

また

戦争が始まる

 

だって

ぼくらが

大がかりに仕掛けたからね

次男がこの前

クラムチャウダーを啜りながら

言っていた

 

(だって、ジンルイだものな)

言いかけて

やめる

 

(メンドクサイナ…)

次男の母が

まだ

母になる片鱗さえ見せていなかったころ

呟いたのを

思い出す




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