されば一生のうち、むねとあらまほしからむことの中に、
吉田兼好『徒然草』
ガンで死んでいった
中条ふみ子や
河野裕子の歌を教えたら
生真面目な大学生が
死のまぎわまで歌をつくり続けるなんて
じぶんにはできそうもない
なにかを残すちからが欠けていて
じぶんは本当にダメだと思う
などと素直な落胆を伝えてきた
宗教的な修行者ならば
逆になにも残さないことに努めるでしょうね
死のまぎわまで詩歌をつくり続けるなんて
なんという恥さらしと非力
来世もあいかわらず
表現や創作や記録などの煉獄に
囚われたままになってしまいかねないと
最期の超脱に努めるでしょうね
…そう書き送っておいた
若いひとたちよ
詩歌も文章も二度とこの宇宙のなかで
なにひとつ創らず表現せず記録しないためにする修行
覚者から見れば醜くおぞましい執着の業
ただそれだけのこととよくよくわかって
今生をそれらに執したらよろしい
文学も芸能も霊的修行にとっては下らないこと
下らないと言われてにっこりと頷けない者たちは
なおさら相手にすべきではない
それに中条ふみ子も河野裕子も
残念ながら断じて日本語の外の世界には広がらない
あの程度の文学表現ならば
他言語にはもっとすごいものがたくさんある
あくまで小さな短歌形式のなかだけのちょっとの煌めき
ホメロスやシェイクスピアにならないなら
文学創作はどれも完全なムダで失敗
フォークナーのように自作はすべて失敗作と自認するのは
潔い控えめな態度という以上に冷徹な事実
現代のフィクション商品界を見てごらんなさい
トルストイもドストエフスキーももう不人気商品
フランスなど必死に国威掲揚のために文学芸術研究を推進している
もうバルザックもスタンダールも世界の若者の気を惹かない
プルーストが凄いと喧伝して自己顕示する暗い者たちもいるものの
凄い凄いと言う人たちはろくに読んでもいないのが通り相場
本当に読み込んだら凄いとさえいえなくなるほど憔悴するだろう
短歌で世界に通用しそうなのは
近現代ではかろうじて葛原妙子の歌ぐらいだろうか
塚本邦雄も素晴らしいが日本人でさえもう読み通せなくなっている
あゝ前川佐美雄は意外と21世紀的だったかもね
とにかく読むのならまずはミラレパの評伝や言葉を薦めます
ラマナ・マハリシやクリシュナムルティ
ヨーガナンダの教えも熟読し
この汚辱の此岸にあるつかの間の滞在期間を
厳しく自己を律する神秘主義行者として生き抜きなさい
空海やナガールジュナの教えもいいかもしれない
それから法然や道元や仏教経典を適切に
あの文体やレトリックに飲み込まれないようにお読みなさい
詩歌も文章もあなたの最期の時には救いとはならない
今日明日命が消えるかもしれない衰弱の時にあなたの意識を支え
若いうちから急いでお読みなさい
なにがあっても世俗の言説を信じてはならない
世俗の限定された時代や場所や風俗習慣が霊魂を絡めとろうとして
仕掛けてくる常識や感性や考え方や価値観に染まってはいけない
神秘家はたったひとり孤絶のなかで超越者となるべきもの
往ける者よ、往ける者よ、彼岸に往ける者よ、
彼岸にまったく往ける者よ、
幸あれ
ガテ ガテ パラガテ
パラサンガーテ
ボーディ スワーハー
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