2021年1月8日金曜日

雪中露天風呂コロナ談義

  

体は嘘をつかない

フリッツ・パールス(ゲシュタルト療法師)

 

 


寒波の襲来ということで

幸田君や広岡君と落ちあった温泉地でも

ずいぶんな雪降りとなった

 

それでも

雪上車を備えている宿だったので

宿のまわりの原野を

車上ドライブしてもらえさえして

逆に楽しませてもらった

 

幸田君は医学部卒の秀才で

医師免許も持っているが

途中で医業を離れて心霊修行に邁進している奇妙な人物で

ふだんは奥多摩の山の奥に住んでいるが

古巣の関心がなおも心にくすぶっているのか

昨今の疾病や医療に関する情報を取り続けていて

だいたいのことには通じている

広岡君は分子生物学研究で博士課程まで進んだが

量子力学と独自の未来学とSFと

なぜか

それらとはずいぶん異なった恋愛小説の歴史に関心を転じてからは

だいぶ道を逸れて

小さな学習塾を都内の繁華な某所でほそぼそと経営しながら

巷の隠遁者のように暮らしている

 

昨今話題のCovid19について

ただの風邪とまではいわないが

全世界の管理社会化のための煽りだろう

という観測をしていた私に

幸田君や広岡君は

確かに大げさに報道し過ぎている部分はあるが

それでも

ただの風邪とは断じていえない奇妙な症状があるのは事実だ

と教えてくれた

 

―ただの風邪や肺炎ではありえないこととして

患者の呼吸が苦しくないらしいんだね

しかし血中酸素濃度は異常に低くなったりする

待機中に急に死んだりするのも

そのせいだろうね

 

―だから診察にあたっては

非接触で血中酸素濃度を測定することなんだよ

高熱が何日続いたかなんて

聞いてもダメなんだよ

 

―だいたい

こんな作用機序じゃないかと思うんだがね

このcovid19の場合

肺の組織が悪化していながらも

二酸化炭素の排出はちゃんとできている

じつは酸素の吸入がひどく減ってしまっているんだが

そういう時は体は自然に呼吸数を増やすものだから

必要な酸素量は

無意識に増やされた呼吸数のおかげで増え

呼吸困難感はあまり感じられなくなっている

しかし

そうしているうちに限界が来る……

 

―そうね

呼吸がはやくて

SPO2が低くなっていて

しかしながら

呼吸苦の自覚がない場合ってのはあぶないね

covidの可能性が高いかもしれない

 

―血中酸素濃度が低いのに苦しくない

っていうメカニズム

もうすこし説明してくれる?

 

―初期段階ではね

ある程度は肺の機能が保たれ続けていて

血中の二酸化炭素濃度が上昇しないものだから

息苦しさを感じないんだよ

 

―ぼくもよくわからないけれど

今回の場合

ウイルスの攻撃で肺の表面の細胞が徐々に炭化して行く

ということがあるらしい

酸素が吸収できなくなっていくわけだ

しかも

このウイルスは

ある一個の臓器に取りつくのではなく

すべての臓器を攻撃できるという説も読んだよ

 

―それに

人口呼吸器もねぇ…

あれ付けたら

外せるようになるのは

はやくても

だいたい20日後だから……

 

―そうね

呼吸器疾患の救急医療に携わっている知り合いの医師が

Covid19の患者のケアをしていて気づいたことを教えてくれたけれど

患者を診ていて驚かされたのは

胸部X線でびまん性肺炎が見られて酸素が正常値を下回っていても

呼吸障害を訴えない場合がある

ってことだって

 

―そうだってね

サイレント低酸素症でしょ?

一種の酸素欠乏症だけど

Covid19 肺炎は最初にそれを引き起こすらしいね

潜行性で検出が困難だから「サイレント」って言っているんだけど

 

―肺の感染症である肺炎においては

気嚢が体液や膿で満たされるわけだから 

ふつうは

胸部の不快感や呼吸に伴う痛みやその他の呼吸障害が出てくる

けれども

COVID19の肺炎では

酸素レベルが低下していても患者は息切れを感じないんだ

 

―そうらしいね

息切れを感じる頃には

酸素レベルはかなり低くなってしまっていて

肺炎の症状は

もう中程度から重度に進んでしまっている

 

―通常の場合

普通の人の酸素飽和度は94%から100%だが

COVID19 肺炎患者の中には50%まで下がってしまっているケースもある

 

―重症化する患者のほとんどが

一週間以上にわたって

発熱や咳や胃のむかつきや疲労感などの症状を感じていたが

息切れを感じるまでは病院に来ていないんだ

じつは

肺炎はすでに数日間続いてきているわけで

病院を訪れた時には

もう危険な状態になっている

 

―ふつうなら

救急科で呼吸管の緊急挿管を必要とするような患者のほとんどは

急性低酸素症のためにかなり酷い状態なんだよね

呼吸するために

全身の筋肉を使ってなんとかしているような状態なんだよ

ところがCovid19の肺炎の患者のケースは違っていて

すでに酸素飽和度が著しく低くなっていて

生命の危機に晒されている患者でさえも

平気でスマホを見続けたりしているんだよ

胸部X線で肺炎がひどい場合でも

あまり苦痛はないらしいんだな

 

 

―表面界面活性物質を作る肺細胞を攻撃するのかな?

この物質は

肺の気嚢が開いたままになるのを助けるわけで

正常な肺機能に重要なんだが

 

―どうだろう?

ともかくもだ

肺炎の炎症が始まれば

気嚢が崩壊し

酸素濃度が低下するわけだが

このウイルスの場合

肺は最初は柔軟なままで体液で溢れてもいないわけだ

依然として

二酸化炭素の排出は可能なままだし

 

―そこが問題点だな

二酸化炭素の蓄積がなければ

患者は息切れを感じない

血液中の低酸素を補うために呼吸は自然にはやく深くなるが

これは無自覚に行われるから

異常の発生が自覚できない

こうした無症候性低酸素症とそれに対する患者の生理的反応が

炎症をそのまま進行させてしまい

空気嚢を崩壊させてしまう

そうしているうちに

酸素レベルが急落する時が来るわけだ

 

―激しく呼吸し続けることで

患者は自分の肺を傷つけてもしまうしね

 

―そうこうするうちに

COVID19患者の20%は

2段階の致命的な肺損傷の段階に進んでいく

体液がたまり

肺が硬直し

二酸化炭素が上昇し

急性呼吸不全を発症する

 

―呼吸困難に気づいて病院を訪れる頃には

酸素レベルはもう危険なほど低くなってしまっていて

人工呼吸器が必要な段階に入っている

 

―肺の症状にはやく気づくのが重要なんだよね

そうできれば

人工呼吸器の必要な状態にまで悪化しないで治療できる

人工呼吸器を使用せずに済めば

患者自身も医療システムもずいぶん助かるわけだ

 

―そうだよね

人工呼吸器を装着するためには

・鎮静剤の投与

・点滴投薬

・胃、膀胱への管

・体位の管理など

が必要となって

医師だけではなく多職種のチームが

たったひとりの患者に関わる必要が出てくる

 

―やっぱり

パルスオキシメータかね?

指先に装着すれば

数秒で

酸素飽和度と脈拍数の2つの数値を知ることができるからね

COVID19肺炎の患者を

無症候性低酸素症の段階で特定できるし

はやく治療を始められれば

もちろん重症化を防げる

 

―そうね

COVID19で陽性と診断された患者も

検査を受けていなくてもそれらしい症状を感じる人も

パルスオキシメータで

2週間ほどモニターを続けるほうがいいね

そうすれば

肺の症状が悪化する前に気づける可能性が格段に高まる

とにかく自分での呼吸の苦しさによる判断が

あてにならないわけだからね

 

…………

…………

 

頭の上に

舞い降りてくる雪を

そのまま白く積もらせながら

露天風呂での談義は

楽しく続いた

 

じつは

量子重力理論の話のほうが面白かったのだが

それについては

また

そのうちにメモしておこうかと思う





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