2021年4月5日月曜日

さらに地図を失って

  


さらに地図を失って

四方八方

までは見まわさないものの

三方五方ぐらいは

視野におさめてみながら

 

世界(などと一纏めにできると思い込みやすい…)

という

膚のすぐ表面からはじまる空間が

いよいよ

わからない

 

わからない

 

認めてしまう

いよいよ

 

いよいよ

 

はじめてのホテルで

天気予報だけを知ろうとして

つけてみると

テレビはダイジェスト版の歌番組のようなものを流していて

わたし

あなた

大切

恋しい

この愛を

いまはただ

永遠

などの単語が

しっとり

散りばめられて

 

時が流れる

 

季節(とき)が流れる

城砦(おしろ)が見える

無疵なこころが何處にある

 

ランボーの詩が

小林秀雄の

定訳になる前の

1930年白水社版の訳で

ポップスの単語たちの

むこうに

遠い白壁のように

見えている

はじめの二行は

中原中也がかっぱらって

漢字だけ直して

じぶんのものにしてしまった

 

いよいよ

わからないよ

世界よ

メモしたかったのだが

 

さらに地図を失って

書き出して

しまって

 

見えている遠い白壁は

いくつもある

 

やがて

わたしたちは

つめたい闇のなかに沈んでいくのだろう

さようなら、

あまりに短かすぎた

わたしたちの

夏の

激しいひかりよ!

 

これは

ボードレール

 

永遠よ、虚無よ、過去よ、暗い深淵よ、

飲み込んだ日々をどうしてくれようという、おまえたちなのか?

言ってくれ! あれら至上の恍惚を返してくれるのだと。

おまえたちがわたしたちから奪ったあれらを。

 

おお! みずうみよ! 押し黙った岩々よ! 洞窟よ! 暗い森よ!

おまえたちのことだけは、時も寛大に扱い、

若返らせさえもするのだから、おお、美しい自然よ、

この夜の、せめては思い出だけでも、守っていっておくれ!

 

これは

ラマルティーヌ





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