2022年1月19日水曜日

どうせなら若かったあの日


 

しかし老人は

歳をかさねていくばかりというのに

若返りというべきものが

からだのすみずみに起こってきているのを感じていた

 

たくさんの

些細なことがらへの好奇心が

ますます高まり

何十冊もの書籍を一度に購入したくなったり

若者でもつらいはずの高山への登山グループに

やみくもに申し込みたくなった

 

さすがに

高山への登山は踏みとどまったが

書籍の購入などはしてしまい

月に数十冊が箱入りで届いたりする

 

用事のない日など

朝はやくから歩きに出て

地図も見ずに行けるところまで進んで

ついに海沿いまで行ったことも

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・ここまで書いて

浩太郎はキーボードから指を離し

この書きかけは

しばらく

放り出してしまっておこうと思った

だって

ぼくはまだ老人じゃないし

この書きかけは

初老とかいう頃になってから

クラウドから取り出して

どう書き続けるか

考え直してみたらいいだろう

と考えた

 

そうして

一行

行開けするあいだに

はやくも50年は経って

もう「初老とかいう頃」も過ぎて

すっかり老人と呼ばれるべき年齢になった浩太郎は

かつて

じぶんが書いた

歳をかさねていきつつ

若返っていく老人とはまったく違って

みごとに

老いぼれ切ったじぶんを悲しみつつ

何度もくりかえし

くりかえし

「しかし老人は

歳をかさねていくばかりというのに

若返りというべきものが

からだのすみずみに起こってきているのを感じていた」

という第1連を読んで

目に涙を滲ませた

 

どうせなら

若かったあの日

書き上げておけばよかったのに

とさえ思った




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