しかし老人は
歳をかさねていくばかりというのに
若返りというべきものが
からだのすみずみに起こってきているのを感じていた
たくさんの
些細なことがらへの好奇心が
ますます高まり
何十冊もの書籍を一度に購入したくなったり
若者でもつらいはずの高山への登山グループに
やみくもに申し込みたくなった
さすがに
高山への登山は踏みとどまったが
書籍の購入などはしてしまい
月に数十冊が箱入りで届いたりする
用事のない日など
朝はやくから歩きに出て
地図も見ずに行けるところまで進んで
ついに海沿いまで行ったことも
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・ここまで書いて
浩太郎はキーボードから指を離し
この書きかけは
しばらく
放り出してしまっておこうと思った
だって
ぼくはまだ老人じゃないし
この書きかけは
初老とかいう頃になってから
クラウドから取り出して
どう書き続けるか
考え直してみたらいいだろう
と考えた
そうして
一行
行開けするあいだに
はやくも50年は経って
もう「初老とかいう頃」も過ぎて
すっかり老人と呼ばれるべき年齢になった浩太郎は
かつて
じぶんが書いた
歳をかさねていきつつ
若返っていく老人とはまったく違って
みごとに
老いぼれ切ったじぶんを悲しみつつ
何度もくりかえし
くりかえし
「しかし老人は
歳をかさねていくばかりというのに
若返りというべきものが
からだのすみずみに起こってきているのを感じていた」
という第1連を読んで
目に涙を滲ませた
どうせなら
若かったあの日
書き上げておけばよかったのに
とさえ思った
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