眠りから覚めるとき
そうか
ぼくは病気じゃないんだ
と
よく思う
病気じゃない時期を
いまは
生きているんだ
と
少年時代
五年間
内臓疾患を生きていた頃
目覚めるときも
なにかするときも
食事のときなど
特に
そうか
ぼくは病気だったんだ
と
気づき直した
慢性疾患だったので
それは
いつ治るとも知れない
治らないかもしれない
不治の病と言われつづけ
ふつうの少年が抱くような夢や
未来への展望や
計画のようなものを
ぼくだけは持てなかった
やがて病気は
ぼくの感受性や
考えかたや
もちろん体の使い方の
あたりまえの基盤になって
ぼくを自動操縦するようになった
ある日突然に
というわけではなかったものの
数ヶ月のうちに
急速に
治っていく
と表現するより
病気が消えていったとき
奇跡がじぶんの身に起こるのはうれしかったが
むしろ
ぼくはたじろいだ
5年間にわたり
病気そのものが自我となっていたのに
ひょっとして
まるで健常者であるかのように
生きていかないといけない?
これから?
と
非常な恐怖に襲われた
あれから何十年
再発もせず
まるで健常者であるかのように
生きてきて
眠りから覚めるときも
そうか
ぼくは病気じゃないんだ
病気じゃない時期を
いまは
生きているんだ
と
よく
思ったりするが
ぼくは知っている
病気であることと
病気じゃないこととは
ほんのわずかな
薄い区切りのこっちと
そっちの
差でしかないことを
体験的に
病気のことだけじゃない
この人生
ほんとうに理不尽な
苦労と不幸を
ぼくは背負わされてきたが
ぼくは知っている
どの幸不幸も
ほんのわずかな
薄い区切りのこっちと
そっちの
差でしかないことを
体験的に
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