2022年4月3日日曜日

ぼくは知っている

 

 

眠りから覚めるとき

 

そうか

ぼくは病気じゃないんだ

よく思う

 

病気じゃない時期を

いまは

生きているんだ

 

少年時代

五年間

内臓疾患を生きていた頃

目覚めるときも

なにかするときも

食事のときなど

特に

 

そうか

ぼくは病気だったんだ

気づき直した

 

慢性疾患だったので

それは

いつ治るとも知れない

治らないかもしれない

不治の病と言われつづけ

ふつうの少年が抱くような夢や

未来への展望や

計画のようなものを

ぼくだけは持てなかった

 

やがて病気は

ぼくの感受性や

考えかたや

もちろん体の使い方の

あたりまえの基盤になって

ぼくを自動操縦するようになった

 

ある日突然に

というわけではなかったものの

数ヶ月のうちに

急速に

治っていく

と表現するより

病気が消えていったとき

奇跡がじぶんの身に起こるのはうれしかったが

むしろ

ぼくはたじろいだ

5年間にわたり

病気そのものが自我となっていたのに

ひょっとして

まるで健常者であるかのように

生きていかないといけない?

これから?

非常な恐怖に襲われた

 

あれから何十年

再発もせず

まるで健常者であるかのように

生きてきて

眠りから覚めるときも

そうか

ぼくは病気じゃないんだ

病気じゃない時期を

いまは

生きているんだ

よく

思ったりするが

 

ぼくは知っている

 

病気であることと

病気じゃないこととは

ほんのわずかな

薄い区切りのこっちと

そっちの

差でしかないことを

体験的に

 

病気のことだけじゃない

 

この人生

ほんとうに理不尽な

苦労と不幸を

ぼくは背負わされてきたが

 

ぼくは知っている

 

どの幸不幸も

ほんのわずかな

薄い区切りのこっちと

そっちの

差でしかないことを

体験的に

 





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