2022年4月24日日曜日

入室する権利を与えられて

 

 

肉体は哀し! ああ、われ万巻の書を読めり!

ステファヌ・マラルメ 『海の微風』

 

La chair est triste, hélas, et j'ai lu tous les livres.

Stéphane Mallarmé 〈Brise marine 

 

 


 

図書館と呼んでしまえば

いくらか

大げさかもしれない

 

しかし

いずれも

16畳から25畳ほどの広さはあり

書架が壁を埋め

床にも高くまで設置されているのだから

小図書館と呼ぶのなら

間違ってはいない

 

親切にも

読書好きの三人の親切な方々の

私設書庫に入室する権利を与えられて

わたしとしては

嬉しいことこの上ないのだ

 

しかも

わたしの住まいから

遠くても

歩いて30分以内なのだから

便利至極でもある

 

この方々の小図書館は

どれも

家の玄関から入る必要がない

勝手口ならぬ出入口が

図書館の一方についており

もちろん

常時そこは鍵がかけられているものの

鍵のひとつを

わたしは与えられたのだ

 

たしかに

庭にいったん入ってから

図書館のほうへぐるりと回って

戸の鍵をあけて入るのには

ちょっとした緊張はある

だが

さいわい犬もおらず

脚に絡みつくような蔦もなければ

音を立てるものもなく

しずかに通ることができる

 

三人の誰かや

お家の家族のどなたかが

図書館にいらっしゃってもおかしくないのだが

これまで一度も出会ったことはない

三人とも

もうすべての本はお読みになってしまって

なにかの必要から

内容を思い出そうと探しにくる時以外は

よほどのことがないかぎり

図書館には来ないとおっしゃっていた

少なくとも

5万冊以上はあるはずの本だというのに

すべてをお読みになってしまった

というのもすごいが

ほとんどを記憶されているというのにも

驚かされる

 

時には深夜になって

図書館に入り込んであれこれと見ていながら

わたしはじぶんの至らなさを

かなしむ

本を読みすすむのが遅いわたしは

これだけの数の本を

はたして

この生涯で読み終えることができるだろうかと

かなしむ

 

 

 



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