肉体は哀し! ああ、われ万巻の書を読めり!
ステファヌ・マラルメ 『海の微風』
La chair est triste, hélas, et j'ai lu tous les livres.
Stéphane Mallarmé 〈Brise marine 〉
図書館と呼んでしまえば
いくらか
大げさかもしれない
しかし
いずれも
16畳から25畳ほどの広さはあり
書架が壁を埋め
床にも高くまで設置されているのだから
小図書館と呼ぶのなら
間違ってはいない
親切にも
読書好きの三人の親切な方々の
私設書庫に入室する権利を与えられて
わたしとしては
嬉しいことこの上ないのだ
しかも
わたしの住まいから
遠くても
歩いて30分以内なのだから
便利至極でもある
この方々の小図書館は
どれも
家の玄関から入る必要がない
勝手口ならぬ出入口が
図書館の一方についており
もちろん
常時そこは鍵がかけられているものの
鍵のひとつを
わたしは与えられたのだ
たしかに
庭にいったん入ってから
図書館のほうへぐるりと回って
戸の鍵をあけて入るのには
ちょっとした緊張はある
だが
さいわい犬もおらず
脚に絡みつくような蔦もなければ
音を立てるものもなく
しずかに通ることができる
三人の誰かや
お家の家族のどなたかが
図書館にいらっしゃってもおかしくないのだが
これまで一度も出会ったことはない
三人とも
もうすべての本はお読みになってしまって
なにかの必要から
内容を思い出そうと探しにくる時以外は
よほどのことがないかぎり
図書館には来ないとおっしゃっていた
少なくとも
5万冊以上はあるはずの本だというのに
すべてをお読みになってしまった
というのもすごいが
ほとんどを記憶されているというのにも
驚かされる
時には深夜になって
図書館に入り込んであれこれと見ていながら
わたしはじぶんの至らなさを
かなしむ
本を読みすすむのが遅いわたしは
これだけの数の本を
はたして
この生涯で読み終えることができるだろうかと
かなしむ
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