過去の記憶からなにか
引き出しては
しゃべってみたり
玩味してみたり
ばかり
では
さびしい
気
が
する
過去をまったく語らないよう
努めれば
ようするに
ただの機械でしかない
だれかが得をするだけのために回転しつづける
虚栄の市の機械
わたしは空を見る
空の遠くのほうを見る
空の近いところを見る
風に吹かれる
風に撫でられつづける
音が聞こえ
鳥の声が聞こえる
生きているのはどうでもいいと思う
生きている
のは
言葉ならべした
ただの表現に過ぎないから
なにかというと
「生きている」と結んで
なにかキメた気になる詩歌芸術のたぐいを
見せられつづけてきた
昭和や平成の時代に
生きている
なんて
言ったり書いたりする必要はないのに
と
いつも思った
言ったり書いたりしなくても
生きている
のだから
生きている
などと
意識しなくても
生きている
のだから
わたしの上の何代もの世代はくだらない
感情的過ぎ
思考力も型に嵌まりすぎていて
ろくな世代ではなかった
優秀な人たちは戦争で死んだのだろう
と思った
意識は実存の死だ
と書いたのは
レヴィナスだったか
音が聞こえる
自動車が調子に乗って飛ばしていく音だが
そんな音にも
わたしはエネルギーをもらう
自作の古い短歌に
「東京生活貫徹すべし」
と書いてあった
ふん
やるじゃないか
二十七年前のわたしよ
オレンジの長きアームを美と呼ばむ東京生活貫徹すべし
歌集『百十八』(1995)
0 件のコメント:
コメントを投稿