竹林のわきの
夕子の家から出ると
驟雨も
降りやむところであった
音が違った
庭の小石を叩いているはずであるのに
まわりを吸うような
音とも言えない音である
さきほどの汗も
吸われていくようだった
もう一度
流していかれればいいのに
と
玄関口で
夕子は言ったが
そんなことを
すれば
もう一度
きみの肌に吸われてしまうだろうさ
そう言って
庭に出たのだった
雨のあいだは止んでいた
虫の声が
そこここで
始まっている
いいね
青いゆうぐれだ
このところ
続きますわ
青いゆうぐれが
夕子は言って
石膏のようなうなじに
指をやった
柴扉を開ける時
ふりかえって
庭の奥のくらがりを見た
夕子のうなじがまぶしいようで
すこし
目を逸らしたのだ
よく見えないが
そのあたりに
数年前
夕子が愛した子猫の墓がある
この頃は
話に上ることもないが
かわいい子猫だった
柴扉に手をかけながら
いまも
話に出そうとは
思わない
驟雨は
子猫の墓も濡らしただろう
青いゆうぐれが
子猫の墓も染めるだろう
0 件のコメント:
コメントを投稿