2022年7月26日火曜日

だからこその


 

思い出したように

断片的に

薄情に

はかなく

愛してきたんだよねえ

わたしたちは…

 

そんなふうに

谷口さんは

妻の攝子さんのほうを向いて言うので

宇治金時のかき氷を

掻くのを

わたくしは

ちょっと

止めてしまった

 

夏山は

蝉の声のさかりで

ひょっとして

谷口さんのいちいちの言葉を

聞き間違えた

のでは

ないかと

思ったのである

 

谷口さんは盲目である

 

攝子さんの

ゆたかな乳房が

すこし

深くまで

ワンピースから覗けるのを

谷口さんは

知らない

 

いや

知っているかも

しれない

 

だからこそ

断片的に

薄情に

はかなく

という

言い方かもしれない






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