車が夜をスーッと走り抜けていて
テールランプにひとつ
なぜかムラサキ色のがあって
きれいだなあと思いながら
愛
を思い出していた
愛って
心理用語や哲学用語や宗教用語のほうのやつじゃなくって
あたしのママが生まなかった
愛のことで
堕胎した赤ちゃんのことで
お腹に赤ちゃんができた
って
ママが言って
恋ちゃん
あなたの弟になるかな
妹になるかな
どっちかな
なんてあたしの顔を覗き込んできたので
どっちも
いらない感じ
って
あたし
答えて
それでママは
中絶した
生まれてくるかもしれなかった子を
ほかの理由もあったかもしれないけど
あたしには
そう
言った
あたしはその子
女の子だった気がして
愛ちゃん
って名づけた
生まれても
生まれなくても
名前は生むことができて
生むのはあたし
恋ちゃん
それから何十年も経って
ママ
いらない感じ
って
思う時があって
ママ
殺したけど
愛
のこと
思い出さなかったなあ
その時
田舎の墓地の誰もいない時間
お花を供えに
カアカア
カラスに和して声出して
ママ
殺してよかったな
とつくづく思い
ママ
も
もともといなかった
パパ
も
すっかり無縁になっちゃって墓地曇天して
いらない感じ
って
思った
あれもこれも
なにもかも
車が夜をスッーッと走り抜けていて
テールランプにひとつ
なぜかムラサキ色のがあって
きれいだなあと思いながら
愛
を思い出していた
あたしが生んだ
名前
愛ちゃん
あたし
独特の母のなりかた
した
たぶん
あたしが
母
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