2022年10月20日木曜日

あたし独特の母のなりかたした

 

 

車が夜をスーッと走り抜けていて

テールランプにひとつ

なぜかムラサキ色のがあって

きれいだなあと思いながら

を思い出していた

 

愛って

心理用語や哲学用語や宗教用語のほうのやつじゃなくって

あたしのママが生まなかった

愛のことで

堕胎した赤ちゃんのことで

 

お腹に赤ちゃんができた

って

ママが言って

恋ちゃん

あなたの弟になるかな

妹になるかな

どっちかな

なんてあたしの顔を覗き込んできたので

どっちも

いらない感じ

って

あたし

答えて

それでママは

中絶した

生まれてくるかもしれなかった子を

 

ほかの理由もあったかもしれないけど

あたしには

そう

言った

あたしはその子

女の子だった気がして

愛ちゃん

って名づけた

生まれても

生まれなくても

名前は生むことができて

生むのはあたし

恋ちゃん

 

それから何十年も経って

ママ

いらない感じ

って

思う時があって

ママ

殺したけど

のこと

思い出さなかったなあ

その時

 

田舎の墓地の誰もいない時間

お花を供えに

カアカア

カラスに和して声出して

ママ

殺してよかったな

とつくづく思い

ママ

もともといなかった

パパ

すっかり無縁になっちゃって墓地曇天して

いらない感じ

って

思った

あれもこれも

なにもかも

 

車が夜をスッーッと走り抜けていて

テールランプにひとつ

なぜかムラサキ色のがあって

きれいだなあと思いながら

を思い出していた

 

あたしが生んだ

名前

愛ちゃん

 

あたし

独特の母のなりかた

した

 

たぶん

 

あたしが





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