老人学成り難し
と
水田少年が鼻歌のように軽く言いながら
6月の水田のあいだを突き抜ける
畦道を
ぴょんぴょん
跳ねるように早足していった
おおい、滑っちゃうよ!
ぼくは大声で注意してやったが
もちろん
水田少年は百も承知で
じぶんの身軽さを
足を滑らせない巧みさを
世界中に見せびらかしているのだ
前の人生を
よく覚えているんだ
と
水田少年は
よく言っていた
ぼくはながながと生き続けて
ずいぶん勉強したり
世間を学んだり
いろいろ見聞を広め続けたんだけど
いよいよ年老いてきて
痛感したのは
あんなに学んだことだというのに
武闘家がいろいろ技を披露できるようなぐあいには
ほとんど身についていなかったし
こまかな知識も穴だらけになってしまっていた
おおいに悔やんで
その後死ぬまで繰り言し続けたのが
老人学成り難し
という
述懐だったのさ
この述懐は
転生輪廻しても口先にくっついてきて
あんなに軽々と
口に出るのだ
老人学成り難し
老人学成り難し
老人学成り難し
おお、見よ!
6月の水田のあいだを突き抜ける
畦道を
ぴょんぴょん
跳ねるように早足していく
水田少年の
あの輝かしさ!
あの明るさを!
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