2023年6月12日月曜日

あんなにあなたの好きだった梅雨が

 


 

梅雨らしくなってきて

雨が降っていない時でも

空は雲で覆われ

太陽が見えない日が続く

昼でもうす暗くなって

紫や青の濃い紫陽花は

いっそう鮮やかになる

 

じめじめし通しで

けっこう暑かったりもするので

なんとなく懈くなるし

物憂くもなる

ちょっと出かけるにも

傘を持たないといけなくて

めんどうくさい

 

こんな梅雨の日々を

いっしょに住んだエレーヌは

肌が日々潤って

すてきだと言っていた

彼女はそもそも

かんかん照りが大嫌いで

薄曇りの天気こそ好きだったので

日本の梅雨ほど素晴らしいものは

母国フランスには望み得ない

と喜んでいた

 

変なことを言うなあ

と思って聞いているうち

そんな見方もあるのかなあ

と思うようになっていき

梅雨が来るたびに

またあなたの好きな梅雨が来たよ

と言ったりするようになった

 

そうして今は

あんなにあなたの好きだった梅雨が

ことしもまた来たよ

と薄曇りの戸外にむけて

言葉もなく思いを告げたりする

 

五月のツツジのピンクも好きだったし

春秋のバラも大好きだったが

梅雨の頃の紫陽花も大好きで

「きれいです」

「本当にきれい」

と日本語でよく言っていたが

「感動します」

とも言っていた

 

日本人ならあまり言わない

そんな表現のしかたが

聞いていて面白かったが

いちいちの花の色やすがたに

深く感動するのを

わたしはかたわらで見続けて

季節の美しさへの

感動のしかたを学び直していた

 




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