2023年12月28日木曜日

一緒に生きてる

 


 

母として

子育てを歌い続けた短歌で有名な五島美代子も

いまでは

ほとんど話題にされなくなっている

 

自分が妊娠してから

子を産み

ずっと育てあげていくまでを

つぶさに歌っていくのは

容易なようで

なかなか常人には遂げられない

 

彼女の場合は

大事に育てた長女に自殺され

子を失うという経験まで加わった

その時の葬儀のことも

短歌に歌い続けた

 

この向きにてにおかれしみどり児の日もかくのごと子は物言はざりし

 

花に埋もるる子が死顔の冷めたさを一生たもちて生きなむ吾か

 

棺の釘打つ音いたきを人はいふ泣きまどゐて吾はきこえざりき

 

吾に来し一つの生命まもりあへず空にかへしぬ許さるべしや

 

あやまちて光りこぼしし水かとも子をおもふとき更にあわてぬ

 

うつそ身は母たるべくも()れ来しををとめながらに逝かしめにけり


わがにはぐくみし日の組織などこの骨片に残らざるべし

 

こういう短歌が

だれでもすぐに手に取れるかたちで

書店に廉価な本で並んでいないというところに

現在の日本の文化の危機がある

ものにはすべて流行があり

かつて評価されたものも

次の時代には歓迎されなくなるのが世の倣いとはいえ

その国や民族の基幹をなす心情の表現を

すこしでも伝えようとしないならば

すでにその国や民族はあやしい

 

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中島みゆきの『誕生』*を聴いていたら

コメント欄に

こんなことを書き込んでいる人たちがいるのに気づいた

 

ちょっと暗い話で恐縮ですが、失恋して娘が自ら命をたちました。

その娘がガス窯に入れられ、お骨になるまでの間、

人生最大の地獄をかみしめながら、

なぜかずっとこの歌を心の中でくちずさんでいました。

生まれて7日目の娘を抱いて病院から家に向かう車の中で、

おだやかな日差しをあびて眠る娘を思い浮かべながら。

それから今まで何百回聴いたか解りません。

私の中では

この曲に悲しみも喜びも感謝もすべて詰まっています。

音楽ってすばらしいです。

支えられてきました。

ありがとうございます❤

 

亡くなった息子が大好きな歌でした。

元気な頃

お母さんこの歌いい歌だから聞いてみてよ

と言っていたのですが

その時は

聞く事はなく

亡くなった後この歌を聞いた時

涙がとまりませんでした。

息子が

部屋で歌っている声や姿が

忘れられません。

 

中島みゆきの『誕生』は

じぶんの子の死というようなテーマを歌っているものではないし

彼女が歌をつくる時の主要なモチーフである

ひとりで生きるのを強いられたものというテーマと

うまくいかない恋というテーマから歌いはじめて

だんだんとひろげて意味あいのもつれていった歌だが

 

Remember 生まれたこと

Remember 出逢ったこと

Remember 一緒に生きてたこと

そして覚えていること

 

という歌詞が

子どもを失ったひとたちのこころを

惹くのかもしれない

 

歌謡曲やポップスは

 

そして覚えていること

 

で終えられて

楽だな

と思ってしまう

 

生まれたことや

出逢ったことや

一緒に生きていたことを

覚えている

いまでも覚えている

いつまでも覚えている

 

……そう言ったところで

そういう唇に触れる大気のなかに

わたしが覚えているひとの記憶も記録も

これっぽっちもない

 

覚えている

いまでも覚えている

いつまでも覚えている

と言ったところで

わたしも死んで消えていくのだし

そういうわたしを覚えているひとはいなくなっていく

たとえ

わたしを覚えているひとが数人残ったところで

わたしが

生まれたことや

出逢ったことや

一緒に生きていたことを

このように覚えているひとを覚えていることまでは

覚えていてはくれまいし

そもそも最初から知っていない

 

そうして

わたしの消えたあとにしばらく残った数人にしたところで

いずれは消え去っていってしまう

 

Remember 生まれたこと

Remember 出逢ったこと

Remember 一緒に生きてたこと

そして覚えていること

 

などという

歌詞の

圧倒的な無効さが

みんな消え去ったあとに空間を領するだけだが

音も立てず

威圧感もなにもなしに

ただ

「覚えている」のなさが

「覚えている」の不在が起こり

永遠にそれだけが続いていくだけのことである

 

ことばでなにを言おうと

なんにもなりはしない

西脇順三郎の記したように

「存在はすべて悲しい」**

と記すぐらいが

せいぜいだし

その程度のことばの使い方が

ことばには

たぶん

ふさわしい

 

ポップスの作詞家

松本隆は

さすがにかるく

おしゃれに

こんなふうに書いて

大滝詠一の声に

乗せたことがあった

 

もうあなたの表情の輪郭もうすれて

ぼくはぼくの岸辺で

生きていくだけ……それだけ……

 

(「カナリア諸島にて」)***

 

 

しかし

 

秘訣を

ひとつ

教えようか?

存在の域に踏み込みながら

存在の魔に冒されてしまわないための

秘訣を

 

Remember 一緒に生きてたこと

 

から

Remember」を

取り去ること

 

   一緒に生きてたこと

 

だけを

ときどき思うこと

 

さらには

すべてを現在形で語ること

 

   一緒に生きてる

 

とだけ

思うこと

 

語ること

 

 

 

 

*中島みゆき『誕生』

https://www.youtube.com/watch?v=0-ShpILIW3k,URL

**西脇順三郎「第三の神話」

***松本隆「カナリア諸島にて」

https://www.youtube.com/watch?v=akqqfrfJWa0





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