2024年9月13日金曜日

秋の風鈴

 

 

 

風鈴は夏のものであろうし

夏の季語であろうけれど

秋に入ってから

かえって

よく鳴るようになって

いよいよ

仕舞えないでいる

 

いちばん居ることの多い部屋の

窓ぎわに

ピンを打って

そこに垂らしているのだが

真夏には

いい風がそこに入ってくることが少なく

たまにしか鳴らなかった

 

聞き漏らすほど風鈴のつぶやけり

桑垣信子

 

この句のような

ひかえめな鳴りかたが多かった

 

風鈴の思ひ出したるごとく鳴り

    波多江イツ子

 

忘れたる頃に風鈴鳴きにけり

谷口佳世子

 

風鈴のなまけてゐたる午後三時

谷口千枝子

 

風鈴の鳴らぬ一日のありにけり

船山博之

 

風鈴の怠る大暑つづきけり

千坂美津恵

 

夏が好きで

夏の暑さも好きなのだが

これらの句にも気持ちの近くなる

暑いひと夏だった

 

どうしたことか

それが

九月に入ってからは

いい風が入り

いい音がする

 

秋もなかばになると

風の道も

変わっていくのだろう

夏の暑さに

怠けてしまうようだった風も

すこし

調子を取り戻してくる

ということも

あるのだろうか

 

飯田蛇笏に

 

くろがねの秋の風鈴鳴りにけり

 

という有名な句があるが

うちのいい音をさせる風鈴は

鉄の上に濃紺が塗ってあるので

あおがねとでも呼びたくなる

 

窓ぎわの

もう一方には

陶製の招き猫の風鈴を吊してある

見た目はたのしく

おもしろいが

舌に五円玉を垂らしていて

こちらは音がよくない

選んで買ったのではなく

ひとから貰ったので

しかたなく

毎年吊してみている

 

猫柄の縁起かつぎや江戸風鈴

桑垣信子

 

こんなふうに思って

見た目だけ

たのしんでいる

 

家の窓ぎわに

こんなふうに風鈴を

ふたつ

吊すだけでも

鳴っても

そう鳴らなくても

にぎやかな感じになるもので

 

風鈴を一つ吊るして世に処せり

西山胡鬼

 

といった

ちょっと悲愴な感じには

ならない

 

舌に五円玉を垂らした

くぐもった音のする招き猫を

ひとつ

よけいに

吊しているためか







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