2020年4月25日土曜日

プロスペール・メリメふうに

 

つい今しがたのこと-

合理主義と形而上学と自然科学の関連ののちに
いかに政治的合理主義が発生するに至ったかを考えるよすがとして
本の山のひとつ所から十数冊を引き出してきたが
そのいちばん上に
歴史教科書として半世紀ほどフランスで用いられた
伝説的なマレ+イザック著の歴史教科書の一部
「諸革命1789-1848」が偶然載ることになった*
この本は今回は必要ではなかったのだが
他の本に紛れて机に積み上げられてしまうことになったのである
リセの教科書とはいえ
明快にして興味尽きない簡潔な記述の並べぐあいと
ある種の雄渾さがどの頁からも滲み
フランス革命以降の動乱史を思い出す際には
まず手に取っておきたくなる名著である

さて
ここで語りたいのはこの本のこうした内容についてではない

この本の表紙に
馬に乗ったナポレオンのブロンズ像の写真が載っている
白地にブロンズの像がシンプルに印刷されているだけで
これといった面白みもなければ
特別なところもない

当面の用事が終わって立ち上がり
ふとこの本の表紙に目をやった時だった
写真のナポレオン像が動いたのである
ブロンズ像の馬がしばらくのあいだ前後に足踏みするように動き続
やがて止まった

ただそれだけのことで
もちろん目の錯覚か
疲れたゆえのこちらの眼球の揺れによるものか
そんなことだろうと思いはするものの
記憶に残っている映像を思い出しながら確かめ直してみても
やはり
動いていたものは動いていた
といわざるを得ないように思われた

たいしたことではないのだが
ナポレオンを乗せているブロンズ像の馬は
さっき確かに前後に足踏みして動いていたのである

これをわざわざ記しておく気になったのは
その後に起こった
これもどうでもよい部類に属することによっている
右の二の腕を後ろから軽く掴まれたのである
後ろには書棚があるばかりで
もちろん椅子と書棚のあいだは少し空いているが
人が入ってくるほどの余地はない
そもそも誰も室内にはいない

ただこれだけの
どうでもよいことであるが
起こったことは起こったことである
もちろん
私の意識に起こったことであって
本の表紙上や
椅子と書棚のあいだに物理的に発生したものだとは断言できない

物理的に起こったと断言はできないのに
物理的に起こったかのように認識したことを
どのように扱ったらいいであろうか



 
*Albert Malet+Jules Isaac Les Révolutions 1789-1848
 (Librairie Arthème FayardPluriel,2010. Librairie Hachette,1958) 




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