2024年8月10日土曜日

水晶の館

 

 

 

つかもうとしてもつかめない

切片の果て

巨大なオレンジがすでに大きく傾いて

真夏の蔭はふかい緑だ

だれひとりいない

水晶の館よ

おれは帰ってきた

希少な極彩色の羽毛の鳥の

さほど鮮やかでない色の

一本の羽だけ

コートの胸ポケットに入れて

 

かつて賑やかだった

園遊会の行なわれた庭にひとりの影を落して

いまや五つの太陽が

弱い弱いひかりを落してくる下に

しばらく立ってみると

おれはただ影だったとわかる

 

すぐわきの

果樹園に傾く

巨大なオレンジと

傾かないグラジオラスと

そうして

種類豊富なメロンのたわわな実り

アプリコットの

うんざりするような

明るさと丸みの

森と呼ぶべきなのか、これも?

だれひとりいない

館の

水晶に吸われていくままの

おれを持て余して

 






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