仏教思想史の梶山雄一が
『佛教の思想』のなかの「般若の思想」で
このように書いている
ゴータマ・ブッダが世に出たころ、インドの知識人、
シッダールタの時代の
輪廻の思想のありようや
これへの思想的対処は
ここでは擱いておく
注目したいのは
「インドに入ってきたアーリア人」
である
「アーリア人」という言葉については
ナチズムによる疑似科学的な歪んだ使用が
大きな悲劇をもたらす動力となったことが思い出され
耳にするだけで胡散臭い気になってしまうが
しかし
学問上は
中央アジアのステップ地帯から出て
インド亜大陸や
中央ヨーロッパや
中国西部まで
拡大した民族グループで
インド・ヨーロッパ語の大移動期である紀元前3000年代に
北方からイラン高原やインド亜大陸へ移住した
インド・ヨーロッパ語族集団を意味している
ここには
ナチズムによる偏向使用はない
そして
英語で「Aryan」
ドイツ語で「Arier」
サンスクリット語で「आर्य」
ペルシア語で「ریا」
とされるこの語の
複数形「Ayirānem」が「イラン」
に思い到ると
2026年2月28日に
イスラエルとその属国アメリカ合衆国が開始したイラン攻撃が
「ユダヤ人」を僭称するシオニストによる
「アーリア人」への攻撃であった
という考えが意識内に現われてくるのに気づく
「アーリア人」という語と概念の問題圏に踏み入るのは
歴史学的にも言語学的にも
あまりに広範過ぎる知的問題圏に踏み入ることを意味するので
あわてて掻き集めた知識群による速断はできない
しかし
サンスクリット語インド文献において
「アーリア」が
ヴェーダ・サンスクリット語を話す者たちや
そこに関わる文化を共有する者たちの民族名であり
紀元前4世紀から5世紀頃には
エリート層や貴族を意味するようになったことや
古代イランのアヴェスター語においては
「高貴な」という意味を持つ「airya」を
アーリア人が自称として用いた
アヴェスターといえばゾロアスター教の聖典で
ツァラトゥストラの名でよく知られているザラスシュトラの言葉と
彼の死後に叙述された部分で構成されている
ヒンドゥー教とならぶ世界最古の宗教経典であり
それにもとづく最古の宗教体系である
イラン高原に住んでいた古代アーリア人は多神教だったが
ザラスシュトラがアフラ・マズダを信仰対象として
世界最古の啓示宗教として
紀元前1200年頃から紀元前7世紀頃に創設したのが
ゾロアスター教だった
善=光の象徴として火を尊ぶことから
拝火教とも言われる
その善悪二元論は地上を善悪の争いの場と見なすことになり
終末論や来世觀も
ユダヤ教やキリスト教や仏教に影響を与えた
とされるが
時代ごとの変遷を見ていこうとしてみると
そのように簡単にまとめて済ませられるものではない
ゾロアスター教における神界構造では
善神オフルマズド(アフラ・マズダ)と
悪神アフレマン(アンラ・マンユ)の対立が思い出されるが
この構造にしても
サーサーン朝初期から5世紀頃までのズルワーン主義の時代には
時間の神ズルワーンが中立的な最高神として想定されていて
この最高神の下でオフルマズドとアフレマンは戦っていた
これが
531年から579年まで在位したホスロー1世の頃には
最高神ズルワーンが排除され
かといってアフラ・マズダが最高神ともならずに
「最高神」という概念が排された構造となり
善神オフルマズドと悪神アフレマンの対立のみの二元論的宇宙観
の確立となり
これはユダヤ・
ゾロアスター教神官団としては
この二元論教義によって
地上における確固とした悪の存在を説明できることになったとし
かつてズルワーンを置いていた時期の
悲観的世界観や人間観から脱して
物質界の肯定と楽観的終末論を唱えられるようになった
ともされるが
このあたりの宇宙論構造は
いかようにも解釈できる性質を持つので
再三見直そうとするべき問題圏と見なしたほうがいい
ともあれ
「アーリア人」からゾロアスター教まで視野に含めた上で
2026年2月や3月のイラン攻撃に戻ると
シオニストによって行われたイラン攻撃は
宇宙観や神界構造における戦争としての面を
浮き上がらせてくる
一元論から二元論へ変化していったゾロアスター教
ないしゾロアスター教的思考に対し
ユダヤ・キリスト教的一元論への回帰を強いる戦争であるとも
見えてくる
もっとも
現在のゾロアスター教徒の数は
イランで3万人から6万人であり
現実的な攻撃対象とするべきほどの脅威ではない
インドの7万5千人の信徒数や
パキスタンの2,500人から6,000人ほど
アゼルバイジャンやジョージアやイラクのごく少数人
イギリスの約5000人の信徒数
北米大陸の10000人ほど
オーストラリアの2500人ほどや
シンガポールや香港や日本やドイツのごく少数の信徒数などは
むろん考慮すべきものでもないだろう
*『佛教の思想 その原形をさぐる』(上山春平・梶山雄一編、中公新書、1974
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