じぶんが住んでいるわけではない
ある集合住宅の1階で
エレベーターが降りてくるのを待っていた
すこし脇の壁に
かなり腹を食われた虫の死骸があって
壁にぶら下がっていた
蜘蛛が食べた虫なのだろう
食い残された部分が
蜘蛛の糸に吊されたまま
壁に貼りついていたのだった
少年時代の昔ならば
こういうのを見つけると
汚らしい感じがして嫌だった
少年時代の
そんな感覚を思い出して
すこし懐かしい気がした
ちょっと不思議に思ったのは
2016年の現在では
虫のこんな残骸を見ながら
むしろ豊かなものへの入り口のように
感じられてならなかったことだ
蜘蛛の巣も
虫のこんな残骸も
見つかればすぐに取り払われてしまう
この現代にあって
こんな光景を目にできたことが
なにか
それ自体とても豊かだった
虫もいて
蜘蛛もいて
虫は蜘蛛に食われ
残骸が蜘蛛の糸に吊されたまま
こんなふうに
しばらく壁に残って……
これが
どれほど素晴らしい光景か
21世紀の人間が
たびたび立ち戻ろうとするべき
たくましい
自然の回路への入り口か
そんなことが思われ
貴重で
うれしい
エレベーターの待ち時間となった
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