桜の咲きそろう前の時期は
だれのだったか
つましい人生のひとに似ている
暖かかったと思えば
すぐに冷え込んで
伸びてきた
あれもこれも
ひととき
また縮こまってしまう
そうしながらも
ぱあっと咲くのだ
ぱあっと
思いながら
咲かないでいるひと
つぼみは
たいそう正確にふくらんで
つぼみであることをこそ
いま咲いている
うつくしく
つつましく
希望のかたちしながら
これが失われるのを
開花と呼ぶのか
手ばなしに
よろこんでみたりする
こころばえの
さびしさ
時間よとまれ
うつくしい
おまえ
とどろきながら
滝にすべてをひきこんで
飲み込んでいく景の
豪勢な混濁
さなか
記憶たちはかならず
灯しなおす
つぼみの
ひとつひとつ
あのかたくなな留まりのさま
時の滝にむかって
しずかに身を
崩さないすがた
(ぽ385号・2010年3月)
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