2010年8月25日水曜日

しずかに身を崩さないすがた

桜の咲きそろう前の時期は
だれのだったか
つましい人生のひとに似ている
暖かかったと思えば
すぐに冷え込んで
伸びてきた
あれもこれも
ひととき
また縮こまってしまう
そうしながらも
ぱあっと咲くのだ
ぱあっと
思いながら
咲かないでいるひと

つぼみは
たいそう正確にふくらんで
つぼみであることをこそ
いま咲いている
うつくしく
つつましく
希望のかたちしながら

これが失われるのを
開花と呼ぶのか
手ばなしに
よろこんでみたりする
こころばえの
さびしさ

時間よとまれ
うつくしい
おまえ
とどろきながら
滝にすべてをひきこんで
飲み込んでいく景の
豪勢な混濁

さなか
記憶たちはかならず
灯しなおす
つぼみの
ひとつひとつ
あのかたくなな留まりのさま
時の滝にむかって
しずかに身を
崩さないすがた

 
(ぽ385号・2010年3月)

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