2010年9月2日木曜日

若い水のように

見た夢には音がなかった
噴水の先
水玉はたえず入れかわり
並木の葉々は揺れ
ときおり鳥たちの影が
青空をよこぎる
雲は大きく動き続け
若い水のように
ふるえる大気

人かげはなく
ある日しあわせだった
世界の横顔のよう
くったくなく光は躍る
影はくつろぐ
なにか起こる気配もなく
重大なことの後の
くつろぎでもなかった

どこにいたのだろう
夢のなかで
揺れる木々の下か
陽のあたるベンチか
噴水の水玉の
なかから外を見てもいた
鳥たちの軌跡を
上から追ってもいた
そこかしこ
どこにもいた

過去ということ
いまということ
見た夢には
音がなかった
いますか、私を知っているひと
来るだろうか
声なら
ある日しあわせだった
世界の横顔のよう
夢からの声
若い水のように


◆「ぽ」296号(2008年7月)

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