見た夢には音がなかった
噴水の先
水玉はたえず入れかわり
並木の葉々は揺れ
ときおり鳥たちの影が
青空をよこぎる
雲は大きく動き続け
若い水のように
ふるえる大気
人かげはなく
ある日しあわせだった
世界の横顔のよう
くったくなく光は躍る
影はくつろぐ
なにか起こる気配もなく
重大なことの後の
くつろぎでもなかった
どこにいたのだろう
夢のなかで
揺れる木々の下か
陽のあたるベンチか
噴水の水玉の
なかから外を見てもいた
鳥たちの軌跡を
上から追ってもいた
そこかしこ
どこにもいた
過去ということ
いまということ
見た夢には
音がなかった
いますか、私を知っているひと
来るだろうか
声なら
ある日しあわせだった
世界の横顔のよう
夢からの声
若い水のように
◆「ぽ」296号(2008年7月)
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