2012年4月11日水曜日

時間と空間とそれを受けとめる意識のありようとをただ立ちあがらせるために






音速戦闘機操縦士だったウラジミール・T
中東で最前線にいたジョン・K
天安門事件で民衆殺戮をした人民解放軍旧兵士李○○
これらが
昨今もっとも隔てなく話せる
毎月のわたくしの飲み仲間である

置かれた状況を生き伸びるのに
それなりの高度の技術をわがものにしつつ
しかしそれに汚染されず
技術も命令も
自分と同一視しなかったところが
この敬愛すべき友らに共通している

―最近の端末の流行はひどいね。
―PCや端末画面は意識の模像だから、人間はうっかりあれを注視することにのめり込む。精神錯乱のような問題が実際に引き起こされるのは流行の初期にすぎないだろうが、端末画面を注視するのに時間を費やしてもどうにもならないと広く知られるまではけっこう時間がかかるだろうな。たくさんの人間が自分の人生の持ち時間を浪費するはずだ。何かをやったかのような思い、なにかに関わったかのような思いだけを抱いたまま。
―戦闘機の操縦室内部もそのまま立体的な意識画面だよ。考えてからレバーを引いているようではもう撃ち落とされている。あるいは標的を逃してしまう。
―戦場の激戦地域もそうだ。状況そのものが自分の意識だね。遠くから発射された弾が自分に当たろうと向かってくるか、それとも数センチ逸れるか、それが瞬時に感知できないと不味い。プロの兵士は、準備不足で徴兵された死体予備軍の人体ではないからね。状況そのものを全開状態の意識にできなければ、次の瞬間にはいなくなる。
―私の場合はあの時どれだけの数量で殺せるかが大事だった。敵対してくる人体は軍には排除すべき障害物にすぎないが、できるだけ短時間にどれだけ排除できるかとなると、やはり状況そのものを兵士は自分の意識にしないといけない。
―かくして…、

とわたくしは確認する

―普通の自分の意識を超えて拡張意識を構成し、そうしてやや時間に先行するかたちで状況に対応した先達たちがあなたがたであり、そういうあなたがたが端末画面には普通の生活人は注意すべきだと言うわけだ。

うす暗いバーの中で
彼らがみな
うなずくのが見える

ジョン・Kが続ける
―いや、本当に。人間がもっとも陥りやすい危険は、意識の模像や模造物に二度と戻って来ない時間や心身エネルギーを平気でつぎ込んでしまい、それで何ごとかをしたような気になって老いていくことだ。プロの兵士は自由で安定した未来の時空という報酬と引き換えに戦場を当面の意識場にしてみるだけのことで、はっきりと金銭的に示されうる報酬がなければ誰もそんなことはするわけがない。無報酬のゲームのようなもののために数時間費やせば、それを終えた後の数時間後には、数時間分老いた自分が発生していて、数時間分エネルギーを奪われた自分の心身が発生している。数時間分のそんな消耗を超える報酬をゲームから引き出せる業種の人間ならいざ知らず、そうでない者がそんな時間の過ごし方をすれば、進んでただ消費される者になっただけのことだろう。生産ならぬ被消費を甘んじる者に身を落としめてはならない。人生の基本中の基本だろう。

うす暗いバーの中で
わたくしはうなずく
みな
うなずいている

―本当に、意識は躓きの石だ。重要なものは、じつは、時間と空間そのものの経験でしかない。なにかに意識を集中したり狭めてはならない。他人たちをそのように仕向け、彼らの意識からエネルギーを絞って我々にのみ役立つ生産を行うのは地上では貴重な産業だが、我々が消費者に陥ってはならない。

―その通りだ。人間界で重要な仕事やテーマなどひとつとして存在しない。なにかが大事だとか、あれはこれより大事だとか、そのような価値観上の差別は、我々の人間精神家畜を増産したり、彼らを意識課題の消費者に落とし込んでエネルギーを絞ったりするには必要だが、そうした産業行程で使えるだけのことで、我々には関係のないことだ。

李○○が言い
それから
まだ
話は続く

―しかし、長年人類を汚してきた最悪の端末は言語表現だろう。本を見たまえ。人類の生を決定的に損なうことになったあの悪魔の発明を。

わたくしが言うと

―いやいや。瞑想、祈りなども酷いものだ。そもそも想像力というものが悪の根源だろうさ。大脳切除を人類に進めるべきだよ。

ウラジミール・Tのこれが、今日のトドメか。

どれも
わかりきっていることながら
いちいち
うまく表現しようとすると
なかなかに楽しい
毎月の
静かな慰安の
時が流れる

やがて
わたくしたちは黙る
言うことがなくなったのではなく
飽きたのでもなく
思い出に耽るのでもなく
思弁に陥るのでもなく
うす暗い
静かなバーの中
いくつかの灯りの美しさ
暖かさを受けとめて
時間と空間と
それを受けとめる意識のありようとを
ただ立ちあがらせるために



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