バルバラ(1930-1997)
[Göttingen (1964)の翻訳・翻案]
セーヌ川じゃなかった
ヴァンセンヌの森でもなかった
でも綺麗だったわ
ずいぶん
ゲッティンゲン
忘れられない
すてきな河岸もないし
はやり歌だってない
嘆きぶしも
引きずるような
歌いかたもなかったけれど
愛は花開いていた
ゲッティンゲン
フランス王たちの歴史
だれも腹立てたりせずに
フランス人よりも知ってた
ヘルマン
ピーターにヘルガ
ハンスらの
ゲッティンゲン
フランスの昔ばなし
むかしむかし…
とはじまる
好まれ
よく語られていた
ゲッティンゲン
わたしたちには
もちろん
セーヌ川や
ヴァンセンヌの森
でも神さま 美しかったわ
ゲッティンゲンの
薔薇たち
わたしたちには
フランスの青白い朝
ヴェルレーヌの
灰色のこころ
かれらには
ほんものの憂愁
ゲッティンゲンでは
ゲッティンゲンでは
どう言っていいか
わからないとき
ただ微笑んで
立っていたかれら
でもよく理解できた
ゲッティンゲンの
金髪の子たち
驚く人もいるでしょうね
こんなふうに言えば
大目に見てくれる人も
きっといると思う
だって
子どもは子ども
パリだって
ゲッティンゲンだって
おゝ 二度と来させないでください
血と憎しみの時代
だって
いたのですもの
わたしの
愛する人たち
ゲッティンゲンには
ゲッティンゲンには
空襲警報がふたたび
鳴るだろうとき
武器がまた手にされるとき
泣きくずれる
こころ
ゲッティンゲンのため
ゲッティンゲンのため
◆バルバラのこのシャンソンの翻案は、すでにネット上の『リタ』に出してあるが、ここにも採録しておきたい。
◆歌を聴いたり歌詞を読んでみると、第二次大戦で被害を受けたドイツの都市への哀惜に思えるが、戦中も敗戦時も、古い大学と多くの傷病兵を抱えていたゲッティンゲンの被害は、他の都市に比べれば比較的少なかったはず。最終連は戦争中の空襲を思わせるが、むしろ徹底的な破壊が行われたドレスデン大空襲にこそ相応しい連にも思える。
少女期、バルバラはゲッティンゲンにいたことがあるのだろうか。謎の多い彼女の生涯をそこまで辿ったことがないのでわからないが、バルバラが1968年に作ったこの歌は、ナチスを生んだドイツに対する戦後フランスからの友情という意味合いを持つものかもしれない。あたかも五月革命の年でもある。
◆このシャンソンを翻案し、自分なりの言葉でカヴァーしたのは、イスラエルによるガザでのパレスチナ人大量虐殺が起こった頃で、詩歌による小さな糾弾と追悼の意味あいがあった。ユダヤ人であるバルバラの歌を、ユダヤ人による虐殺の被害者たちへ。そんな意図があった。
この歌を歌うバルバラ自身の映像へのリンクを付しておきたい。
◆時と場所は違うが、今もシリアで市民への虐殺が続いており、ハウラHoulaでの爆撃では100人以上が犠牲になったという報が届いたばかりだ。ロンドンで生まれ育った大統領夫人アスマに、各国の国連大使夫人たちが「あなたの夫を止めて!」とメッセージを送り続けているのは有名な話だが、ファッションリーダーふうのアスマがなにかアクションを起こしたとは、まだ聞かない。Youtubeには、2009年のガザ虐殺に言及したアスマのヒューマニスティックなインタヴューもあり、現在のシリア情勢との皮肉な重なりが見られる。将来、一編の小説や映画になりそうなドラマが、アサド大統領夫人アスマの身辺に、心に、いま、リアルタイムで起こり続けている。
[原詩]
Göttingen
Barbara
Bien sûr, ce n’est pas la Seine,
Ce n’est pas le bois de Vincennes,
Mais c’est bien joli, tout de même,
A Göttingen, à Göttingen,
Pas de quai et pas de rengaines,
Qui se lamentent et qui se trainent,
Mais l’amour y fleurit quand même,
A Göttingen, à Göttingen,
Ils savent mieux que nous, je pense,
L’histoire de nos rois de France,
Hermann, Peter, Helga et Hans,
A Göttingen,
Et que personne ne s’offense,
Mais les contes de notre enfance,
« Ils était une fois», commnencent,
A Göttingen,
Bien sûr, nous, nous avons la Seine,
Et puis notre bois de Vincennes,
Mais, Dieu, que les roses sont belles,
A Göttingen, à Göttingen,
Nous,nous avons nos matins blêmes,
Et l`âme grise de Verlaine,
Eux, c’est la mélancolie même,
A Göttingen, à Göttingen,
Quand ils ne savent rien nous dire,
Ils restent là, à nous sourire,
Mais nous les comprenons quand même,
Les enfants blonds de Göttingen,
Et tant pis pour ceux qui s’étonnent,
Et que les autres me pardonnent,
Mais les enfants, ce sont les mêmes,
A Paris ou à Göttingen,
O, faites que jamais ne revienne,
Le temps du sang et de la haine,
Car il y a des gens que j’aime,
A Göttingen, à Göttingen,
Et lorsque sonnerait l’alarme,
S’il fallait reprendre les armes,
Mon coeur verserait une larme,
Pour Göttingen, pour Göttingen....
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