(歌人に美女がいないのはなぜ…
もう廃墟にもいかない
デイヴィスのティータイム
ぼくはサラダをちょっと食べ
次に来るはずの
〈世にも珍しい〉ソテーを待っている
アルコールはやめておくさ
どうせ夕方から飲むんだからね
お茶ばかり飲んでいる
デイヴィスの赤らんだ頬
さっきからなにも話さないぼくら
性の話も一巡したし
この間の戦争での
虐殺トップテンの話も終わったし
―クリュイタンスっていう蝶、知ってる?
―知っているさ、ボヘミアの蝶
あまり即座に答えたものだから
デイヴィスの話の腰を
折ったかもしれない
知らない、と言っておけば
よかったかな
思いながら
クリュイタンスの
コバルト色の鱗紛が舞う
森のほとりを思い描く
ティーカップを捧げるように
飲み続けるデイヴィス
なのにいつまでも
お茶は飲み干されず
カップになみなみと揺れている
澄んだ赤錆色が
いつまでも見える
永遠というものか、ああ、
象徴のように白杯を捧げ持ち
唇を触れ続ける肥満男
デ、イ、ヴィ、ス、よ
テーブルの端に
アペリティフのお菓子がまだあり
ひとつは「詩」といい
もうひとつは「歌」という
そのわきに置いたままの
詩集『空』『女=ペニス』『黒が鳴る』は
昨年自殺したアルフォンソの遺作
少しめくっただけで
まだ読み終えていないが
詩集などめくるだけでいいもの
読み終えるのは不吉
卵を芝生の透明の母性に委ね
デイヴィスのように
語らないことだ
なんであれ、ティータイムには
そして
サフランの香る
金色の膣を思い描き
きみは手を伸ばす
作らせたばかりの銀製の
50センチの角状の近未来ペニスに
昔むかし
というものが
ぼくにだってあって
愛した女歌人がいたのさ
美しい顔立ち
大柄な身体と太い腰
しかし乳は貧相で
アンバランスがよかった
少し遠い海を
ともに見に出かけて
どういう経緯だったろう
ひまわりをたくさん抱えて
町に戻ってきて
二度と会わなかった
それ以来
美しい歌人には出会えなくなり
あの女歌人の
小さな呪いなのかなと
思う
ときどき
ふいに
さびしくもなって
まだ飲んでいる
デイヴィス
減らず
涸れない
澄んだ赤錆色の
永遠よ
ぼくはサラダをちょっと食べ
次に来るはずの
〈世にも珍しい〉ソテーを待っている
もう廃墟にもいかない
デイヴィスのティータイム
ボヘミアの蝶が
無言の明るいぼくらの間を
ひらひら
ひらひら
ひらひら
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