やわらかい冷蔵庫をぼくらは発明した
設置場所第一号はぼくの台所
お祝いのパーティーもぼくの台所で
しあわせについて
いまでも考え続けているのだった
キャ…で始まる名前の女の子が去ってから
五年以上を砂漠に暮らし
町にも
人々のところにも
もう戻らないと思った
砂漠には土でできた固いヒトガタの林立があり
ときどきそこに入って行っては
風が立てるうなりを聞いて
夕方や 夜や
ときには夜明けを迎えた
話しかけるべき相手のいないヒトガタの林立は
ぼくの心の奥に似ていた
いずれはここに来ないことになるナ
そう思いながら
踏み込まなくなった心の奥を思い出した
ぼくの心の奥のことを
キミノ心ガ
キミノ親友ダトハ カギラナイゾ
そんな格言をこしらえて
冷やしておく冷蔵庫がほしかった
たぶん キャ…で始まる名前の女の子の去る
何十年も前からの望み
いまや めでたく完成をみて
お祝いパーティーの日を
こうして迎えられたわけでございます
このやわらかい冷蔵庫
ものを入れるにも
とり出すにも
むにゃっとしたお肉のような
綿のような
お布団のような
そんな外装の奥のレバーを握ってドア開閉
お肉のような
綿のような
お布団のような
そんな中に手を入れれば
たいていはレバーに届くけれど
ときどき迷って
むにゃっとした世界を
手は遊泳する
これからはそんなふうになり
そんなふうに日々は生きられていくことになり
ふっと あの砂漠の
固いヒトガタの林立だって
むにゃっとした中で
よみがえったりするのかもしれない
それにしても
ぼくは確信している
世界のどこにも
忘れものはしてこなかったし
なにも置き去りにはしてこなかった と
なによりの証拠が
このやわらかい冷蔵庫
お肉のような
綿のような
お布団のような
むにゃっ
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