モーツァルトさえ

ソファに横になるのは

どうしようもなく疲れて帰ってきた時や

食べ過ぎてしまった時

モーツァルトの

やさしい

やわらかい

有名な曲のかずかずを

かけて…

（若い頃にはこれを馬鹿にし

（尖鋭的な音楽を

（たくさん聞き続けていたものだが…

（角が取れてきた、と

（俗な言い方をしておこうか…

今日あした

来年さらいねん

それほど近くではなくても

もう

死は射程に入ってきている年齢

モーツァルトの

やさしい

やわらかい

有名な曲のかずかずを

聴きながら

かたちのないこれらさえ

死のむこうに持っていくことは

できない、と思う

記憶さえ

心の震えさえ

感動さえ

持っていくことはできない、と

ならば

いま

ソファに横たわって

モーツァルトさえ

どう聴いたらいいのかと

惑う

なにもかも

持っていきたい

というのではないにしても

どう聴いたらいいのか

どう見たら

どう感じたらいいのかと

惑い続ける