2013年2月14日木曜日

ズンズンズンズンズンズン




自分の土地の地下で核実験をした隣国のほうより
もっと北から吹いてくる風の
つよかった一日
なくなってきた電池を買い備えようと
ひさしぶりに大きなホームセンターのほうへ
あまり知らない道から
さらに知らない道とたどって
進んでいくうちにうるわしくぼくは迷い
ひさしぶりにすてきな迷いだと嬉しくなってもっともっと
ぐんぐん進んでいくうちに
ひしゃげた屋根や
こまっしゃくれた娼婦がまばらに並ぶ
貧相な路地の入り組む区域に入り込んでしまって
大きな魚を解体している(冬というのに)裸の女魚屋さんに驚き
見とれて
なあんだ、Tバック
してんのか
とちょっとがっかりして眺め直したら
かつて別れた加寿子ちゃんだとわかって嬉しくなり
駆け寄って「寒いだろう、早春に路上で裸になんてなって」と
抱きしめてあげたら「あら、嬉しい!あなたも脱いで、脱いで!」
というから「なにを?服はダメだよ、寒いよ、寒中路上ワイセツだよ」と
拒むと「なにいってんのよ、携帯電話を脱ぐのよ、はやくぅ!」
というから
自分の体を眺めると携帯電話を着ていたのだったから
おやまぁ!とビックラこいて
脱ぎにかかったがこれがなかなか脱げないんでごじゃるよ
んでもどうにかこうにかそうにかとうにかのうにかほうにかもうにか
お尻のあたりから脱ぎ捨てるのに成功して
なんでまぁ、こんなのを着ていたんじゃかのぅ、と
ちょっと来し方を回顧してみたのだがやっぱりわからぬ
ともかく加寿子ちゃんを抱く準備はこれでできたわいと思って
腕を伸ばして加寿子ちゃんの裸体に絡みつこうとすると「あああ、
ダメじゃん!それも脱いで!女の子なんか着てるじゃん!」と
いうものだからまたまた自分の体をふり返ると
どうなってるんだかぼくは女の子なのでありました
なんて
納得してたまるかってんだよ女の子じゃないんだからな
だけど携帯電話を脱いだ下に女の子のこの体はいったいどういうことじゃろ
家を出て来る時には男だったように思うんだけど
どこで女の子になっちゃったんだろうと訝しみながら
ともかく女の子を脱ぐべ
脱がないと加寿子ちゃんを抱けないものな
とまたまたお尻のほうからペッというぐあいに脱ごうとすると
剥がれ出した女体というより女の子体の裏側から手がにょろにょろと
百本ぐらいは出てきてあっちに揺れたりこっちに動いたり
なんだかイソギンチャクみたいで
ぼくはイソギンチャクでもあったんだなと思い直して「加寿子ちゃん、
ぼくのお尻に海して!あるいは海洋生物して!
それが嫌ならファラデーの法則あたりでもいいや、して!して!して!」
と原爆してみたら
ニュルッとソフトクリームにユーラシア大陸が弾んで
――と、
女の子の皮がけっこう厚手に剥けたんですわ
でもでもそれで終わらなかったね
その下にも女の子
その下にも女の子
その下にも女の子
と面倒だからこれ以上はくり返さないけれど女の子女の子女の子なんですわ
ぼくは女の子をこんなにかぶっていたのねわたしとかあたしって
自称したほうがいいかしらって思ったけれど
ざけんじゃねえ
女の子を多重構造的にかぶってたからといって女の子ってわけじゃねえんだ
と少なくとも脱ぎ捨てた四十八枚ぐらいの女の子の皮を
あんぐり大口開けて飲み込んでしまったら
お腹と背中に新しい穴が急にメリメリメリメリと裂けるように開きましてね
ぽぽん
ぽぽん
ぽぽん
てなぐあいにちょっと音まで立てて
ひり出たのは六十九人の小さめの加寿子ちゃんだったのです
この六十九人がまあ群れて群れてくちゅくちゅとぼくに吸いつくように来て
いや、ほんと
ほんとに吸いついてきたもんだからぼくは吸われっちまって
分解解体溶解霧散して
小さめの六十九人の加寿子ちゃんの体の中に吸収されてしまって
なんだかわからなくなったなあと感じてしばらくしているうち
アジアとぼくをお呼び!
アジア!
おおアジア!
と叫びたくなって
テレビで聞いたマンセーの掛け声が思い出されて
涙が出てきたのです
おおアジア!
目覚めよアジア!
なにかと中小企業させられてきたアジア!
みんな同朋ではないか!
などとぼくが思ったわけではありませんが思いだけがズンズンして
あとはもうズンズン
ズンズン
ズンズンズンズン
ズンズン
ズンズンズンズン
ズンズン
ズンズンズンズンズンズン…





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