坐ったまゝ何度も眠りに落ちては目覚め
もう夜も更けて三時も過ぎたというのに
珈琲を今ごろになって一杯飲みたくなり
湯を沸かして一杯分だけ少量淹れている
こんな今がいちばん幸せな時間なのだと
たくさんの不幸やふいの死去を見てきて
本当に思うので眠りの足りぬ明日をまた
迎えるとしても独りだけの寛ぎの時間を
もう少し守っていたい、そう四時頃まで
もうちょっとだけ、と手元にある写真集
『死刑数分前の貌、眼差し』の頁を繰り
彼らの目のうるみや鈍い輝き、顎や首の
色や光りの入り方の違いなどを眺め続け
髪の毛がやけに撫でつけられているとか
子供っぽい顔の死刑囚が意外と多いとか
思いつつモーツァルトのピアノ協奏曲の
フォルテピアノ版のものを掛けようかと
心が動くがそれはやめて写真集も閉じて
珈琲を何度か小さく飲み下し、贈られた
モンブランの万年筆やウォーターマンの
ボールペンを久しぶりに握ってはみるが
それらで書きつけるべき何ごともなくて
文机に敷き延べてみたフィレンツェ製の
厚手の黄色い書簡用紙をまた仕舞おうと
思うがしばらく出したままにしておいて
美しい見事な黄色にまなざしをさらして
脳の奥まではれやかに
小さい寿ぎをする
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