沼に戻らない選択肢
詩と呼ばれて
いるものを早朝の沼に
置き去りにして
村のほうへ
しかし
死に絶えた村
閉まって久しい
小屋のような郵便局も過ぎ
高低の背の
草の茂る空地を
いくつも過ぎ
このあたりに
A子が住んでいたが
―とよぎる
思いの湧く一角にも
なにか知れない
錆朽ちた大きな金属の塊が
草に埋もれている
煙草もなく
茶の小瓶もなく
メモ帳さえなくて
見まわしては
なにをするでもなしに
人生のように
重心をたえず変えながら
立っているばかり
せめては
記憶しておいて
Z男に伝えようかと思うが
あゝ彼も
そもそも架空の人物
また沼に戻る
戻るしかないが
昼前の沼にか
思いきって
夕暮れの沼にか
そんなことを思いはじめるうちに
沼に戻らない選択肢が
ゆっくりと血肉をとっていく
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