2014年8月28日木曜日

死臭



  
電車に乗る
空席に座る
しばらくして
死臭に気づいた

隣りには
中高年の御婦人
安定した生活に見える
品も悪そうではない

もう一方の隣りは
中年男性
ビジネスバッグを膝に
スマホを見ている

強い臭いではない
軽い腐敗臭
口臭ではない
汗の臭いでもない

もしや自分から
と思って
自分の臭いを
嗅ごうとしてみる

男性からか
とそちらのほうを
それとなく
嗅いでみる

どちらでもなく
やはり
御婦人のほうからだと
確信する

手提げバッグをふたつ
膝に乗せているが
中のものを直そうとしてか
カサカサ弄っている

この御婦人は
品の悪い人ではないが
そのしぐさを
片時もやめない

たゞそれだけのことだが
とにかく
軽い腐敗臭がする
昔の葬儀の部屋の臭い

ある駅が近づいて
御婦人は立ち
ドアのほうに去った
臭いは消えない

駅に着いて
御婦人は下車したが
空いた席に
まだ臭いは消えない

しばらくして
若い女性が座り
スマホを見続ける
臭いは消えていた

いくつか駅を過ぎ
隣りの男性が下車し
中年の女性が座り
スマホを見始めた

すると
ふたたびまた
立ち込めてくる
あの死臭…




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