電車に乗る
空席に座る
しばらくして
死臭に気づいた
隣りには
中高年の御婦人
安定した生活に見える
品も悪そうではない
もう一方の隣りは
中年男性
ビジネスバッグを膝に
スマホを見ている
強い臭いではない
軽い腐敗臭
口臭ではない
汗の臭いでもない
もしや自分から
と思って
自分の臭いを
嗅ごうとしてみる
男性からか
とそちらのほうを
それとなく
嗅いでみる
どちらでもなく
やはり
御婦人のほうからだと
確信する
手提げバッグをふたつ
膝に乗せているが
中のものを直そうとしてか
カサカサ弄っている
この御婦人は
品の悪い人ではないが
そのしぐさを
片時もやめない
たゞそれだけのことだが
とにかく
軽い腐敗臭がする
昔の葬儀の部屋の臭い
ある駅が近づいて
御婦人は立ち
ドアのほうに去った
臭いは消えない
駅に着いて
御婦人は下車したが
空いた席に
まだ臭いは消えない
しばらくして
若い女性が座り
スマホを見続ける
臭いは消えていた
いくつか駅を過ぎ
隣りの男性が下車し
中年の女性が座り
スマホを見始めた
すると
ふたたびまた
立ち込めてくる
あの死臭…
あの死臭…
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