いまの住まいは
世にもすばらしいところ
高級とは程遠いが
これ以上の場所がありうるとは思えない
他人にとってではなく自分にとって
適度な広さ
適度な部屋数
適度な廊下の長さ
適度な闇と明るさ
居間からは戸外のみどり
すこし離れた道をゆく人びとのすがたが
パリのカフェからの眺めのよう
春には花咲く桜の木々が並び
初夏には若く伸びるみどり
空は十分にひらけて
ベランダから見える雲のすばらしい時には
高原や海辺のテラスにも負けない
買い物の便利だし
交通の便もよい
ほんの少し歩けば
四方八方が広大に見張らせる大河に出る
こう記しておくのも
しかし
天変地異が本当に近いから
すばらしいところで暮らしたと
いつまでも満足心を保っておけるようにしたいから
ぎりぎりまでここにいようと思うが
秋からは天候の異常はさらにひどくなる
世界は崩壊過程を早める
自然が人に
人が人に
さらに襲いかかり始める
豪雨
洪水
浸水
土砂崩れ
対立
衝突
殺戮
戒厳令
収容所
無差別虐殺
財産没収
あらゆることが押し寄せ
家は手放さざるを得ず
家財は失われ
病はつぎつぎと人を蝕んで
もう風呂にも入れずに
無言で衰弱し死を待つのが
いちばんの幸せとなる
いま世界で起こっていることが
飛び火のように広がる
人々の無視や
しかるべきことに興味を持たなかったことが
激しく返ってくる
もう始まってしまっている
加速度がすこしでも強まらないようにと
願うのがせいぜい
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