2015年5月26日火曜日

夏が来るといつも



とうのむかしに亡くなった恋人のひとりは
白いシャツの似合う
大柄で豊かなからだの
あかるいひと
夏が来るといつも
そこらの街角から現われて
手を振るのではないかと思う

本人は得体のしれない鬱に悩まされ
感情や思考とからだの感覚とが切れてしまっていて
たとえば空腹になっても
空腹という情報が意識に上がらず
くたくたに疲れても
疲れたという情報が意識に上がらなかった

そんな日々が重なった末に
とうとうからだを壊して逝ってしまったが
「じゃね、また近いうちに!」と言い残したまゝ
連絡もとれなくなってフェイドアウトし
逝ってしまったことさえ
何年もしてからようやく伝わってきた始末

大柄で豊かなからだの
あかるい印象をぼくに焼きつけて
夏が来るといつも
そこらの街角から現われて
手を振るのではないか
ちょっと気分のよい夕方や夜中に
電話が来るのではないかと
いつまでも
いつまでも
新鮮に思わせ続けて



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