2015年6月26日金曜日

ほら こんなふうに



あゝわたしにはほんとうにわたしがいない
ほんのちょっと生きることをしてきてみての
これが実感
みんなやけに自信ありげなのにわたしはたじろいでしまう
―これがわたしです
―わたしをこう見てください
―わたしはこんなことをしてきたのです
とあんなにあんなに言い続けていて
疲れないのだろうか
安普請の家にたくさんのお客を呼ぶような気はしないのだろうか
綿やスプリングの少ないソファーに身を投げるような
たよりない儚げな気分にならないのだろうか
わたしにはほんとうにわたしがなさ過ぎているので
頭ばかりか心臓も他の内臓もからっぽの気がする
なにを読んだり見たり聴いたりしても
わたしの中に入った瞬間にスーッとなくなってしまうので
大切なものだと言われたりする経験だとか
学びだとか鑑賞だとか思索だとか反省だとか
みんなあやしいフワフワなものとしか感じられない
わたしはわたしと発語している時ぐらいに一時的にわたしで
たとえばこの文字の並びを書き終えた瞬間に
はじめからなにもなかったかのように
サアッと音さえ立てないでいなくなってしまう
ほら
こんなふうに



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