2015年6月6日土曜日

カブちゃんのバラバラ



巣作りの時期らしく
カラスが物干し竿のハンガーをよく盗んでいく
かたちを変えられるからだろう
プラスチックのものは盗らず
ちゃんと見きわめて
ワイヤー製のものだけを盗っていく
干してあったTシャツを落して
とめてあったピンチから
名人芸なみにうまく抜き取り
ハンガーだけを盗り去っていく

昨年の夏に死んだカブトムシを
カブちゃんと呼んで
小箱に入れ
防腐処理をして
あいかわらず手元に置き続けてきたが
ちょっと虫干ししようかと思い
日差しのつよい午後
ヴェランダに出してみた
取り込むのを忘れて
そのまゝ外出してしまった
帰ってみると
やはりハンガーが盗み去られていたが
カブちゃんの箱も落とされていた
胴と首がバラバラにされ
床に散らされていた
胴は突かれて
固い羽根が毟られ
からだの中まで穴が開いていた
もともと死んでいるのだし
一年近く死骸になっていたので
胴の中はすっかり乾燥して
がらんどうになっている

カラスから見れば
ちょっとした珍味に思えたのだろう
けれど突っついてみると
それほど旨くなかったのかもしれない
きっと
煮干しなんか
食べ慣れてないヤツだったのだろうな
防腐剤のにおいも
ずいぶん染み込んでいたはずだから
不味かったのかもしれない

せっかくきれいに標本になっていたのに
うっかり出しっぱなしにしておいて
残念なことをしたと思ったが
バラバラになったカブちゃんを
すぐに捨てはしないで
芝桜の植えてあるプランターの
空いたところに置いておくことにした
カラスやスズメが来たら
突っついていいよ
という感じに

ところが
それから数週間経つが
なかなかカブちゃんはなくならない
胴体と頭の部分
もっと詳しく言えば
前胸背板と前胸腹板の部分と
そこから離れた
上翅と後胸腹板に囲まれた部分とが
バラバラになったまゝ
いつまでもプランターにある
鳥たちも
この固いところは
あまりお好みではないらしい

そういうわけで
プランターに水をやりながら
毎日のように
カブちゃんのバラバラを
眺め続けているが
むごいとも
悲惨だとも
思ってはいない
カブトムシの固い殻は
そう簡単には消えていかないけれど
土の上にこんなふうに晒されて
雨に洗われ
風に吹かれ
だんだんとかたちを失っていくのが自然だし
最良なのだと思っているから

ほんとうに
むごく
悲惨なのはなにかと言えば
現代の人間の墓地の中の
コンクリートのカロートの上に
土に帰ることなく
いつまでもいつまでも壺に入れられたまゝ
つめたく
ひっそり並べられ
納骨され続けている遺骨たちの
うら寂しすぎる
あの状態




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