巣作りの時期らしく
カラスが物干し竿のハンガーをよく盗んでいく
かたちを変えられるからだろう
プラスチックのものは盗らず
ちゃんと見きわめて
ワイヤー製のものだけを盗っていく
干してあったTシャツを落して
とめてあったピンチから
名人芸なみにうまく抜き取り
ハンガーだけを盗り去っていく
昨年の夏に死んだカブトムシを
カブちゃんと呼んで
小箱に入れ
防腐処理をして
あいかわらず手元に置き続けてきたが
ちょっと虫干ししようかと思い
日差しのつよい午後
ヴェランダに出してみた
取り込むのを忘れて
そのまゝ外出してしまった
帰ってみると
やはりハンガーが盗み去られていたが
カブちゃんの箱も落とされていた
胴と首がバラバラにされ
床に散らされていた
胴は突かれて
固い羽根が毟られ
からだの中まで穴が開いていた
もともと死んでいるのだし
一年近く死骸になっていたので
胴の中はすっかり乾燥して
がらんどうになっている
カラスから見れば
ちょっとした珍味に思えたのだろう
けれど突っついてみると
それほど旨くなかったのかもしれない
きっと
煮干しなんか
食べ慣れてないヤツだったのだろうな
防腐剤のにおいも
ずいぶん染み込んでいたはずだから
不味かったのかもしれない
せっかくきれいに標本になっていたのに
うっかり出しっぱなしにしておいて
残念なことをしたと思ったが
バラバラになったカブちゃんを
すぐに捨てはしないで
芝桜の植えてあるプランターの
空いたところに置いておくことにした
カラスやスズメが来たら
突っついていいよ
という感じに
ところが
それから数週間経つが
なかなかカブちゃんはなくならない
胴体と頭の部分
もっと詳しく言えば
前胸背板と前胸腹板の部分と
そこから離れた
上翅と後胸腹板に囲まれた部分とが
バラバラになったまゝ
いつまでもプランターにある
鳥たちも
この固いところは
あまりお好みではないらしい
そういうわけで
プランターに水をやりながら
毎日のように
カブちゃんのバラバラを
眺め続けているが
むごいとも
悲惨だとも
思ってはいない
カブトムシの固い殻は
そう簡単には消えていかないけれど
土の上にこんなふうに晒されて
雨に洗われ
風に吹かれ
だんだんとかたちを失っていくのが自然だし
最良なのだと思っているから
ほんとうに
むごく
悲惨なのはなにかと言えば
現代の人間の墓地の中の
コンクリートのカロートの上に
土に帰ることなく
いつまでもいつまでも壺に入れられたまゝ
つめたく
ひっそり並べられ
納骨され続けている遺骨たちの
うら寂しすぎる
あの状態
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