いつか役に立つだろうと
買い込んできた書籍がいっぱいの
一階奥の螺旋階段裏の書庫
女中のマーサが
いつも綺麗にしていてくれるので
これっぽっちの埃もない
本の古びた臭いもしない
書庫の窓からは
梅や桃や林檎や桜の植わる庭
末妹のエルザがよく駆けまわっていた
折ってはいけないというのに
満開の桜の小枝を持って
純白のドレスの袖を挿しいれて
窓辺から私を呼んだこともあった
マーサがこの頃水に挿しているのは
梅でも桜のでもないスミレの小束
低い小さな花瓶をテーブルに飾っている
風もないのに花びらが揺れるさまを
本を開きながら何度も観察したが
鬱然たる冊数のこの書庫にさえも
なかなかに花好きの精霊は居られるのか
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