2016年3月15日火曜日

しっとり軽い起床鈴のように

  

むかし好んで
しばらく忘れていた曲が
かすかに
春の訪れとともに
漂ってきている

もう好むのも忘れ
好みかたも忘れていた曲が
記憶の端にだけは
どうやら残って
そこに
ポッ
ポッ
と燠のように
あかるみを帯び
熱を蘇らせる

むかしとして
むかしもすっかり
静まり
離れ離れて
なにも
思い出しもしないことの
大いさに
寛いでいた心に      

好みかたも忘れていた曲が
朝のひかりの
しっとり
軽い
起床鈴のように
遠さ
辿りつきようのなさを
緻密に凝らした
これ以上ない近さとして
わたくしのものでなど
なかったと
今は熟知している
耳の奥に
響き出している




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