むかし好んで
しばらく忘れていた曲が
かすかに
春の訪れとともに
漂ってきている
もう好むのも忘れ
好みかたも忘れていた曲が
記憶の端にだけは
どうやら残って
そこに
ポッ
ポッ
と燠のように
あかるみを帯び
熱を蘇らせる
むかしとして
むかしもすっかり
静まり
離れ離れて
なにも
思い出しもしないことの
大いさに
寛いでいた心に
好みかたも忘れていた曲が
朝のひかりの
しっとり
軽い
起床鈴のように
遠さ
辿りつきようのなさを
緻密に凝らした
これ以上ない近さとして
わたくしのものでなど
なかったと
今は熟知している
耳の奥に
響き出している
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