細い板を渡した
たよりない
舟着き場の先端まで行って
戻ってくるだけが
毎朝の
日課のようになった
台所の裏ドアから出て
露に濡れた草を踏み
湖から突き出た木板の先まで
ゆっくり足を進め
先端まで行く
しばらく潤った静寂と居て
たぶん
わたしと
新たな日との間の
まだ固まっていない
薄い肌のようなものを
誰にも気づかれないように
見とがめられないように
調律する
やがて
落ちないように
後ろに向きなおって
もうずいぶん古い木板の並びを
身軽な動物のするように
足先で音も立てず
戻ってくる
わたしが生まれない頃
むかしむかし
この舟着き場は賑わったそうで
朝な夕な
おめかしした人たちが
ひとりひとり
舟から下りたり
乗り込んだり
そうして
今は跡形もないお城への
近道を
ここから辿っていったのだとか
もう舟は着かず
出てもいかず
木板が湖の水面に伝えるのは
わたしの足の動きだけ
湖に知られたくない
思いも
思い出も
いっぱいあるわたし
本当にひっそり歩を進めるので
湖がさざ波を立てることも
ほとんどない
わたしの動きのせいで
などは
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