まだ明け方に間のある頃
雨もようやく止んで
ちょっと濃い珈琲をすこし
ほんのすこし
飲みたくなって
厨にむかう
わたしの小さな居間から
何段も
何段も
階段を下りて
いったん玄関ホールの
広い静寂の中に身を滑らせ
それから
長い
長い
廊下をたどって
青年時代までは入るのを禁じられた
大きな厨にむかう
ほんのすこし
濃い珈琲を飲みたくなっただけ
というのに
なんという冒険だろう
明かりも仄かにしか点いていない
長い
長い
廊下をたどって
わたしはまだ厨に辿りつかない
この廊下は本当に長くて
その時の歩幅や速さによるものの
どうしても15分はかかる
わたしはまだ厨に辿りつかない
けれど
着いたあかつきには
好きな珈琲の種類のうちの
どれにしようかと
ちょっと楽しく迷いながら進む
豆を挽くことから始めないといけないが
珈琲挽きには
前に挽いた豆の風味が残っていないかしら
それをもう一度よく
拭きとらなければいけないかもしれない
先に湯を沸かし始めたら
沸くのが早過ぎていけないかもしれない
水も井戸に汲みにいかなければいけないけれど
この夜明け前の暗がりの中で
井戸を除くのはちょっと怖いかしら…
いろいろ思うけれど
わたしはまだ厨に辿りつかない
まだまだ
辿りつかない
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