「生まれる以前にそうだったように
「死後の魂は長きにわたり孤絶し
「魂と呼びうる他の実体に出会うことが殆どなくなる
「それを深みで知っているので
「生きている間に魂は他の魂に必死で出会おうとする
「喜怒哀楽
「愛憎離苦
「殺し合いでさえもが強度の出会いなので
「進んで激突を望む魂もある
「しかし
「どのような出会いを重ねようとも
「すべての魂はたゞひとり孤独に死ぬ
「そうして死後も魂としての意識を維持しつゝ孤絶する
「人界の時間に換算すれば少なくとも七千年は続くといわれるが
「反応力の強い魂たちは百年程度の孤絶で済む場合もあるという
「いずれにせよその間ほかの魂に出会うことは一切ない
「しかも光はなく完全な暗黒の中に宿命づけられる
「 自力で光を灯せる魂だけが周囲の状態を認知でき方向を定められる
「 そのため自力で光を灯せる魂に他の魂が寄り添ってくることもある
「魂のグループ化が生じるのはこのためであり
「転生の際にグループで近くに生まれることもある
こんな話を聞かされながら
ぼくはときどきカラカラとグラスの中の氷を響かせながら
うす暗い大きなバーのソファーに座っていた
仕事でこれまで殺した何人かの男たちのことを
めずらしく思い出しながら
魂ということばに躓く人間もいるわけか…
と思って
小さく笑い顔を作ったかもしれない
話している相手は
うす闇の中なのにそれを見咎めて
「きみ、魂の話をしているんだぜ
と言った
そうさ、魂の話を聞いているつもりでいるさ
と答えようとしたが
すぐにやめて
「夜景がきれいで、それがオレを喜ばせるんだ
といくらか翻訳口調で言った
『夜景がきれいで、 それがオレを喜ばせるので笑い顔として表出されたんだ
とでも言えばよかったと思ったが
いつも後の祭り
ま、「んだ」を付けたから
まだしもよかったかなと自分を慰めた
それにしても
きれいな夜景だ…
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