2016年10月3日月曜日

わたしのわたし



まだ生きていたら
あなたは秋の街なかの
この柵の端に寄りかかって
色づきはじめた梅の葉や
桜の葉を眺めながら
野良猫がひょいと
そこらの茂みから顔を出すのを
待っていたかもしれない
ひさしぶりに晴れた
今日の午後あたり

あなたの見るはずだった
街のあちこち
新しくなっていく
都市のすみずみまでを
あなたのかわりに見続けながら
また秋か
あなたの逝った月が
また来るのかと
まるであなたであるかのように
歩きまわり続ける

そう
あなたの逝った後ずっと
こんなふうに
見歩いてきたから
わたしはわたしの見方を
たぶん失ってしまって
こうして見歩いているのは
空っぽになったわたし
どんなに街が変わっても
むかしのままでも

どうでもよくって
そんな
こんなは
むかしに戻りたいのでもなくて
あゝ二度と
戻ってこないものの
戻ってこないことの
せつなさになり切って
もうどこにもいない
わたしのわたし



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