2016年10月30日日曜日

雨だったから


Avec le temps, la passion des grands voyages s’éteint, à moins qu’on n’ait voyagé assez longtemps pour devenir étranger à sa patrie.
      Gérard de Nerval  « Les nuits d’octobre »


雨だったから
ミッドタウンからは乃木坂へ急いだが
後ろをちょっとふり返れば
雨にけむる
懐かしい六本木の交差点のあたり

あまり馴染んだわけでもない界隈のわりには
なにかと待ち合わせしたり
通り過ぎたりすることがあって
ヒルズの裏には戦後から遠縁の伯父さんも住んでいたし
西麻布に縁があった頃には
買い物といえば六本木や
麻布十番や
広尾まで出て
やけに高いものを籠に入れながら
なんて狂った街だと呟いていたこともあった
もっと昔のことを言えば
ゴダールもタルコフスキーも
アンゲロプロスあたりも
この界隈のスクリーンで見たのではなかったか

急いで銀座の画廊に向かうのだし
雨だったから
ミッドタウンからは乃木坂へ急いだが
後ろをちょっとふり返れば
雨にけむる
懐かしい六本木の交差点のあたり

あまり馴染んだわけでもない界隈のわりには
なにかと待ち合わせしたり
通り過ぎたりすることがあって
雨にけむる夕暮れには
あれやこれや懐かしくて
しめつけられる心

こんなところにさえ
散り敷いた思い出の数々があるのなら
あそこや
別のあそこ
他の数々の場所になど
数えきれないほどの思い出

雨だったから
ミッドタウンからは乃木坂へ急いだが
後ろをちょっとふり返れば
雨にけむる
懐かしい六本木の交差点のあたり




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