海が近い
あかるい台所にいる
叔父が現われた
急に現われるはずもないから
霊だろうなと思う
話を聞くと
やっぱり
死んじゃったそうな
「それは大変だったでしょう」
「いや、そうでもなかったんだよ」
「じゃあよかったですね」
のんびりした会話を
ちょっと交わす
ときどき
言葉が途切れるけれど
むりに
言いたくないことを
言おうとも
しない
叔父のわきに
もっと若いだれかもいたので
その人も
たぶん
死んじゃったんだろうな
と思う
その人のほうも
たぶん
大変では
なかったんだろう
暖かい日だ
きょうは
そのうち
叔父は
消えていくんだろうな
と思う
あかるい台所と
そこにつながっている
リビングを
ちょっと見まわす
海が近い
死んでいない
ぼく
ひとり
「暖かいですね、きょうは」
「暖かいね、きょうは」
叔父は
まだ
消えない
もうひとりの人も
まだ
消えない
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