2017年1月6日金曜日

いや、事実さ



(清水一喜君の話を聞いていた…
(正月早々、だそうな…


正月早々
母に電話して
また言いあいになりそうで
すぐに切ったが
母の卑劣な逃げ続けの手口に
ふたたび
血圧は急上昇しそうだった

二十五年前の真夏
態度の悪くなっていた高校生の弟と
泥酔した父とが
居間で喧嘩を始めた
父は酒乱で
昔から問題を起こし続けてきた
たびたび拘置所に入れられる
家の中では鉢上に小便をする
飲み屋やスナックでは店の人に暴行を揮う
泥酔して帰ってくる時には方々の家を叩いてくる
酔わなければいい人だと母はかばった
酔えば人ではなくなる
「はい」や「いいえ」さえ通じなくなる
「はい」と言えば殴られる
「いいえ」と言っても殴られる

飲んだ時の怒鳴り声や乱暴沙汰は
毎度のことなので
あの真夏も
今さら意に介さない
しかしその夜の騒ぎは違った
父の荒れ具合はいつもの程度を越していた
黙って受け流しておけばいいのに
弟の言い返しも激しかった
酔っ払いがなにを言うかと叫んでいる
掴み合いの喧嘩が始まっていた

椅子やテーブルにぶつかって
がたがた音が立つ
私は別の部屋で勉強中で
聞こえてくる居間の様子を
はじめは
いつものこととして聞き流していた
しかし真夏だったからか
『欲望という名の電車』の夜のように
暑過ぎたからか
止めなければいけないと感じ
居間に向かった

ふたりを引き離そうとするうちに
ふたりから殴られたが
それでも弟は離れて
棄て台詞を残して他の部屋に去った
去っていく弟を父が追おうとするので
それを止めると
父は今度は私のほうにかかってきた
「酔ってるんだからやめてよ」というようなことを
私は言ったのではないか

 父は酔うといつも人間ではなくなった
 これは他人に話してもなかなかわかってもらえない
 酔って眼つきの変った父に対面している時
 何度となく猛犬や猪の雰囲気を感じた
 憑依ということをたびたび思った
 なんとも耐えがたい嫌な雰囲気が漂う
 それが不愉快で酔った時の父は避け続けた
 
 その後に起こったことは個人には大乱で
 人生はたったの一晩ですっかり変わることになった
 数日前の夢では獰猛な虎が数頭
 家の居間や台所を歩きまわっていて
 それを避けて食器棚の上や箪笥の上に上がって
 虎たちがいなくなるのを待ち続けていた
 恐ろしくて堪らず起きてからも鼓動の高鳴りが収まらなかった
 包丁で切り合いをするに到った際に
 この夢がありありと蘇ってきた
 そればかりでなく異常なほどたくさんの思いや映像が浮かび続け
 いつの時代とも知れない全く別の世で
 いま父となっているこの男と殺し合いをしている様を身体に感じた
 この男とはたびたびの輪廻でこれをくり返してきた
 またふたたびくり返されようとしている
 そうわかって呪いや憑依や宿命といった言葉が頭を煮え切らせた
 
今年の私は変貌を遂げるらしい
二十五年間曖昧にしか他人に語らないできたことを
はっきりと言葉にする時期が来たと感じる
すべてをぶちまける私小説の方法を取るべきかと思う
毒親という言葉が一部で流行ったが
まさにそれに蹂躙されてきた青少年期まで戻って
しかしあまりに微に入り細に入り込み入り過ぎているので
分解しながら書き出すことを始めようと思う

報復?
いや、事実さ


(清水一喜君の話を聞いていた…
(正月早々、だそうな…




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