ひとりの夜なので
いつものように灯はみな消して
館の中を長々と歩きまわる
壁が傍にある廊下は
いくらか手さぐりしながら
壁のない広間は
手さえもう伸べることなく
どうしてこれほど
闇に惹かれるのかと思うが
答えはいつも出ないので
もう考え詰めもしない
闇の中にしばらくいると
体と外との区別は
だんだんつかなくなっていく
それがうれしいのか
気持ちがよいのか
それともなにかへの
回帰のような気分なのか
やはりわからないまゝ
疑問だけは持ちつゝ
闇から闇へと進み続ける
闇の中では亡霊たちに
出くわしたりするのではと
かつては怯えたりもしたが
今ではよくわかっている
かえって亡霊は闇の中には
居残っていたりしないのだと
彼らはひかりを求めるのだと
インドの聖者たちのうち
体を持たない至高者たちには
ぶ厚いカーテンのように
陽光は重過ぎて耐えがたく
日中には姿を現しづらいと聞く
亡霊の好まぬこの闇になら
彼らは今夜も来てくれようもの
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