2017年3月3日金曜日

ランデヴー



ひとりの夜なので
いつものように灯はみな消して
館の中を長々と歩きまわる
壁が傍にある廊下は
いくらか手さぐりしながら
壁のない広間は
手さえもう伸べることなく

どうしてこれほど
闇に惹かれるのかと思うが
答えはいつも出ないので
もう考え詰めもしない
闇の中にしばらくいると
体と外との区別は
だんだんつかなくなっていく

それがうれしいのか
気持ちがよいのか
それともなにかへの
回帰のような気分なのか
やはりわからないまゝ
疑問だけは持ちつゝ
闇から闇へと進み続ける

闇の中では亡霊たちに
出くわしたりするのではと
かつては怯えたりもしたが
今ではよくわかっている
かえって亡霊は闇の中には
居残っていたりしないのだと
彼らはひかりを求めるのだと

インドの聖者たちのうち
体を持たない至高者たちには
ぶ厚いカーテンのように
陽光は重過ぎて耐えがたく
日中には姿を現しづらいと聞く
亡霊の好まぬこの闇になら
彼らは今夜も来てくれようもの




0 件のコメント:

コメントを投稿