2017年3月3日金曜日

雛祭り



男の子には
どこか
おそろしかった
雛祭り

女の子の家に呼ばれ
雛壇の前に
神妙に座らされ
雛あられを貰ったり
菱餅を貰ったり
甘酒を飲まされたり
そうしながら
人形たちの顔を
ひとつひとつ
見つめ続けた

うちに帰って
眠りに就く夜には
雛壇に見つめ続けた
それらの顔々が
ろくろ首のように
夢うつつの中を
ひゅうひゅう
ふわふわ飛んで
ぎろぎろ
ぎろぎろ
こちらのことを
見つめてくるような

けれども
なによりこわかったのは
雛祭りが終わった後
木箱に仕舞われた
人形たちのこころ持ち
闇の中で来年まで
ながい一年間を
花見もできず
夏の日差しも浴びられず
花火も見られず
秋の紅葉も夕焼けも
冬の雪原も見られずに
樟脳臭いなかで
じっと忍んでいなくては
いけない暗いさびしさを
わがことのように
痛切に
痛切に
思いやってみる時



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