2017年4月5日水曜日

まるで燃焼機関のしくみでも見るように



いつの桜の頃だったか
しつこいほど花見に呼ばれたのに
行かなかったことがあった

大事な用事があったからだが
行ったとしても
あの面々との花見では
どうにも面白くはなさそうだと
思われたのもたしか

用事はスムーズに終わり
花見の場所は帰路にあったので
参加するつもりはないものの
盛り上がっているかどうか
脇から見ていこうかと思った

十人近くが集まって
けっこう盛り上がっていた
想像されたとおりに
そのうちのふたりだけが
声を張り上げてしゃべり続け
他の人たちの話など
引き出そうともしていない

面白くなさそうだと予想したのは
いつもと同じように
このふたりが我がもの顔に
自分の話ばかりすると思われたから
かわいそうに他の面々は
なかなかいい人たちなものだから
一方的に聞かされるばかり

かれらの輪に入っても行かず
声さえもかけずに
ちょっと離れて
この面々をただ見ていたばかりだが
あゝよかったよかったと
心の底から思えてきて
胸が温かくなるほど和やかになれた

話に付きあわされている面々を見ながら
その時かれらの時間といのちが
しゃべるふたりの勝手な傍若無人な話に
せっせせっせと変換されていくのを
まるで燃焼機関のしくみでも見るように
わたしは凝視したように思った

二度と戻らない時間といのちを
ふたりのこんなおしゃべりに
どんどん変換されていくままにして
かれらの未来の炎の芯が
どんどんと短くなっていくのを
おそろしいほどありありと
見させられているような気がした

たゞそれだけのことで
以後は二度と花見などしませんでした
などということはなくて
ありきたりに物見遊山し続けたが
どんな小さなことをするにも
人はごっそりと時間といのちを
注ぎ込む他ないさだめだとは
ありありと見えるようになった




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